23 メジロの知恵

1998.8


 年寄りの一つ話というのがあって、ああまたかと思っても、年寄りが話すのを「おじいちゃん、その話はもう100回も聞きましたよ」とは言えないものだ。聞き終わってから、「これで100回目だ」と家族の者が目を会わせてちょっと笑う。外人なら肩をすくめるところだ。

 ぼくの父方の祖父も、口数の少ない人だったが、一つ話があった。

 「メジロを捕るときは」とはじめたら、もう覚悟だ。何でも祖父によれば、メジロを捕るときは、まずオトリのメジロを一羽用意する。(そのメジロを捕るときはどうするのかは知らない)そのオトリのメジロを籠にいれて、木の枝につるす。そしてその籠のすぐ近くの枝にトリモチを塗っておく。籠の中のメジロが「チイ」と鳴くと(この「チイ」というところが祖父の聞かせどころだった。口の悪い父は「おおまたチイだ。」といって舌打ちした。)別のメジロがチイと鳴いて、近くの枝にとまる。そうして、トリモチにくっついたところを捕まえるというわけだ。

 たいていのメジロは、そうやって簡単に捕まった。「ところが、おい、中には頭のいいメジロがいてなあ。」さて、いよいよ話は佳境だ。なんでも、トリモチにひっかかったと知ると、たいていのメジロならバタバタしてさらにトリモチにからまれるのに、その頭のいいメジロというのは、じっと動かないんだそうだ。全身の力を抜いてじっとしている。そうすると、自分の体の重みで、枝から逆さにぶら下がる格好になる。それでも動かない。すると、どうだ、自分の体の重みで、メジロはポロリと地面に落ちる。そして「チイ」と鳴いて逃げていってしまう……。

 この話が終わると、みんなやれやれと思ってホッとするのだが、ぼくはいつも一種の感動を覚えたものである。祖父が何回もこの話をして飽きなかったのも、実際にそういうメジロを見て、忘れがたい印象を刻み込まれたからだろう。ほんとうなのかなあと疑問にも思うのだが、この話、なかなか暗示に富んでいて忘れがたいのである。