97 青い電車の一日

2005.8


 やっぱり電車が好きである。

 我が家のすぐ近くを走っている京急が、最近青い電車、名づけてブルースカイトレインというのを走らせ始めた。京急といえば「赤い電車に白い帯」なのであって、赤がシンボルカラーなのである。青い電車が走っていると初めて聞いたときは、我が耳を疑ったものだ。

 青い京急は、京急の車内でも宣伝され、マニア(オタクという言葉はぼくは使いたくない)の間では、話題騒然といったところであることも最近知った。しかしたったの2編成しかないという希少さのゆえに、我が家の近くの線路ではなかなかお目にかかれなかった。今までも暇があると線路端に出かけ、京急の写真を撮ったりしていたので、とにかくこの青い電車の写真を撮りたくてたまらなかった。

 この青い京急を撮ることを今年の夏休みの課題とした。

 しかしこの電車は毎日決まった時間に走るのではなく、ばらばらに走っているらしいので、この真夏の炎天下にいつ来るともしれない電車を待っているなんてできるものではない。しかしある日の夕方、意を決して1時間半待ってみた。けれども結局青い電車は現れなかった。

 やっぱり無理かなあと諦めかけていたところ、数日後チャンス到来。東京に用事があると出かけていった家内からメールが入った。

「11時20分、横浜下り、青電車すれ違いました。」

おお何という機転。それならあと10分でこっちへ来るではないか。カメラを担いで線路端に直行した。家からほんの30秒である。すると、すでにそこに三脚を構えてスタンバイしている30代くらいのオニイサンがいる。「青い電車ですか?」と思わず声をかけると、「ええ、でも黄色いのもさっき来ましたよ。」という。(黄色いのとは、一般車両ではなく事業用の車両で、マニアはここまでカバーするわけだ。)「どこから?」というと「大阪からです。」という。しかも仕事ではなく趣味だという。まったく頭がさがる。大阪から新幹線に乗ってわざわざ我が家の近くまで来る人もいるのだから、たった1時間半の待ちぼうけで諦めかけていたぼくなどは、爪のあかでもいただいたほうがいい。

 何かと話しているうちに、青い電車がやってきた。夢中でシャッターを切りまくり、その電車が今度は「上り」となってやってくる時間を時刻表で割り出し、見事に「上り」を撮り、更にもう一度「下り」となって引き返してくるのを待ち伏せして撮り、ぼくの「青い電車の一日」は終わったのだった。


Home | Index | Back | Next