78 体の細胞が苦しんでいる

2005.4


 夢というものは、深層心理の反映だろうから、やたらに人に話すものではないのだろう。夢どころか、文章や絵だって、そこにはその作者の心理のなんらかの反映があるに違いないから、そういうことを強く意識する人は、やたらに公開したりはしないだろう。

 大学の先生が、黒板に絵を描くことすら怖いといっていたと、教え子のメールにあった。そんなことを言っていたら、ひとこと発するのだって怖いことになるんじゃないか。ぼくは、自分がそもそもどういう人間かわからないから、どう思われたってかまやしない。教壇でしゃべって、文章や絵をホームページで公開しても、別に怖くなんてない。怖いというのは、「知られたくない自分」というのをはっきりと持っていると自覚(あるいは錯覚)している人間に違いない。その先生の話を聞いて、そんなふうに思った。

 ぼくは幼い頃からよく夢をみた。大人になっても、夢ばかり見ていて、朝の忙しいときに、家内に見た夢を話すものだから、ずいぶん嫌がられる。嫌がられても話すのは、そうやって話すことで見た夢を忘れないようにしたいという思惑もあるのだ。迷惑千万な話である。

 先日こんな夢を見た。

 どうも体の具合が悪いので、近くの病院に行った。精神科のようだった。中年の男の医師は、ぼくの鼻の中を覗きながら、「鼻中隔湾曲だなあ。」という。(たしかにぼくは鼻中隔湾曲である。)さらに色々な鼻の病気の名前を挙げて「何でこんなになるまでほっといたのかなあ。」と嘆く。そうか、調子が悪いのは鼻のせいだったのかと思っていると、今度は聴診器を腹や背中にあてながら、「あーあ、全身の体の細胞がみんな苦しがっていますねえ。」と言う。体の細胞が苦しむ音が聞こえるのか? それにしても、よっぽど疲れているんだなあとしみじみしていると、医師は突然、「どうです? アンシドックを試してみませんか?」と言う。「アンシドック=暗視ドック」と頭の中でつながる。「それはいくらぐらいなんですか?」と聞くと、「950円です。」という答え。ずいぶん安いなあと思っていると、中年の看護婦みたいな女が、それ東戸塚のお店に売っていますから、そこで待ち合わせて一緒に買いましょう、なんていうので、なんだかそれはそれで面倒なことになりそうだなあとウンザリしているうちに目が覚めた。

 まあ、こんな夢から、ぼくの深層心理がわかるものかどうか知らないが、「疲れている」ことだけは確かだ。


Home | Index | Back | Next