52 ゴロゴロ

2004.10


 家でゴロゴロしているなんてことは犯罪だと考えたほうがいいです。詩や小説を書いて本を出すとか、絵を描いてアトリエに飾るとか、薔薇を育ててその花の写真をホームページにどんどん載せているとかいう方を知っています。とにかく、外へ出て行くこと。4人に1人の高齢者がこんなふうに元気になれば、消費意欲も高まり、経済も活性化するのです。団塊の世代はそろそろ55ぐらいだと思いますが、これまでの長い会社や仕事を中心とした人生は、本当の人生を始めるための長い準備期間なんだと思います……。

 夜中のNHKのラジオから流れてくる声。おいおい、誰なんだ、こんな阿呆なことをいう奴はと思って聞いていると、三田誠広だった。芥川賞作品「僕って何?」は、同世代ということもあり、まあそれなりに面白く読んだ記憶はあるが、数年前、「中年って何?」なんて本を出して、その後書きだったかに「団塊の世代はもう一回団結すべきじゃないか。」というようなことを書いているのを書店で見て、思わず放り投げてしまったのを覚えている。世間が「団塊の世代」なんて一括りにして語るのでさえ腹立たしいのに、自らが「俺たち団塊の世代は」なんてよく言えるものだ。その上「団結」とは。そんなに「団塊の世代」を無条件に同質と思っているなんて信じられないほどの鈍感さではないかと、ひたすら腹立たしかった。

 今回のラジオだって、いったい何を言っているのだろう。ぼくも55歳になったばかりだが、5年先に控えている定年後の人生こそが「ほんとうの人生」で、今までの55年の人生がその「準備」だったなんてこれっぽっちも思わないし、思いたくもない。それはこの55年間に十分満足しているとか、思い通りに人生だったとかいうことではない。むしろ後悔だらけの55年だった。けれどもそういう後悔も含めての55年間以外のどこに自分の人生があるというのか。

 定年後に、ボランティアをやろうが、絵を描こうが、本を出そうが、薔薇を育てようが、それは各人の勝手だが、そういう「自由」な活動だけが「ほんとうの人生」を保証するなんてことは絶対にない。

 定年後、家でゴロゴロしていて何が悪いのか。どこが犯罪なのか。ゴロゴロしているのが幸せならば、せめて定年後ぐらいはゴロゴロしたっていいじゃないか。何にもしないことが一つの大事な価値だってことぐらい、定年にも達した大人ならそろそろ理解してもよさそうなものだ。


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