43 どっちが不思議?

2004.8


 深夜のテレビで、コレクション自慢の企画があって、中年の男が、アニメのソノシートのコレクションをスタジオに持ち込んだ。ソノシートというのは、こういうペラペラのレコードが入ったこういう冊子のことで、とキャスター(?)が説明したが、もちろん、厳密には間違いで、ソノシートというのは、ペラペラのレコードそのものの名称だ。ただそのソノシートだけ売ることもできないから、冊子にしてあっただけのこと。と、ぼくは理解している。

 それはともかく、せっかくだからといってその人はポータブル電蓄まで持ち込んで「エイトマン」の主題歌なんかを聴かせたのだが、そのとき、グラビアアイドルの小倉優子がソノシートを見て、「えー?、それ音が出るんですか?」という。中年の出演者(誰だっけ?)が、「だって、ほらこうやってね。」と電蓄のターンテーブルにのせて、針を落とす。「針がそれに触ると音が出るんですか? えー、何で?」と小倉は不思議そうな顔。「だって、それ同じ所を回っているのにー、何で?」。

 中年の何人かの出演者たちは、さすがに笑って「これね、線は一本なの。ずっとつながってるの。」と説明したが、小倉は「へー」と不思議そうな顔をするばかり。その後も、「じゃあ、早送りとかはどうするんですか?」なんてトンチンカンな質問をして中年諸兄を困らせていた。

 小倉優子は1983年生まれの21歳。(知ってたわけではありません。ネットで調べました。)この年齢の子は、レコードも知らないということなのか。CD=コンパクトディスクが世界に先駆けて日本ではじめて発売されたのは、1982年の10月だということだから、小倉が生まれるおよそ1年前ということになる。(小倉優子は11月生まれ)CDの普及はそれなりに時間がかかったが、小倉が音楽を自主的に聴くようになったときは、すでにレコードは過去のものとなっていたのだろう。

 それにしても、針が溝を通っただけで音が出るレコードのほうが、CDより不思議に感じられるというのは、何だか面白かった。CDの原理なんて何度聞いても何のことやらさっぱり分からない。だからもう、どうしてCDから音がでるのかなんて誰も考えない。CDは密室の中に入ってしまって、見えないということもその原因だろう。生な形で構造が見えると、「どうして?」と思うものだ。デジタル機器は、そうした素朴な疑問を封じてしまっているのかもしれない。


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