35 パジェロ! パジェロ!

2004.6


 もう何年続いているのか、相当な長寿番組にTBSの「関口宏の東京フレンドパーク」というのがある。毎回普通二人の芸能人がゲスト出演し、様々なゲームをして、それをクリアーするごとに10万円相当の金貨をもらい、最後にその金貨とダーツの矢を交換し、そのダーツで最高商品である三菱自動車のパジェロをねらうという趣向である。

 ゲストがキャーキャー言って遊んでいるのを、ただ見ているだけなのだからバカバカしいのだが、面白くてつい最後まで見てしまう。

 特に最後のハイパーホッケーは、運動神経が鈍いゲストがやっているのを見ると、ほんとイライラする。熱くなる。前回のゲスト、ロザンナとその娘なんか、このホッケーをクリアすればグランドスラムだというのに、へなちょこな打ち方しかできない。腕を大きく振って、思いきって打て! ほら! そこだ! ああ、ばか! みたいな怒号が口をついて出る始末となる。

 ところで、前回の放送で、最後のダーツの場面。これはもうこの番組の伝統で、観客が一斉に手拍子をうちながら「パジェロ! パジェロ!」と囃すことになっている。ところが、昨今の三菱の一連の不祥事があって、この場面を流していいものかとスタッフは困ったそうなのだ。(ということを関口宏が別の番組でしゃべっていた)その日、ダーツになると、「この番組は、4月○日に収録されたものです。」というようなテロップが流れた。なるほど、そういう処理をしたのかと思って、後は、ロザンナとその娘のあまりに下手なダーツにひたすら呆れていた。

 ところがその翌日、朝のラジオで、森永卓郎が、昨日のフレンドパークって最後の「パジェロ」のところ、お客さんの口は明らかに「パジェロ」って言っているのに、音は「クルマ」だったですねえ、というではないか。え、そうだったの? さっそく家内にそうだった? と聞くと、「ああそうだったの。後で何か変だったなあと思っていたのよ。」という。確か「パジェロ」とは言ってなかった。でも何て言ってたのかって考えるとよく分かんなくて、ずっと妙な気分だったという。

 「パジェロ! パジェロ!」っていうのが耳にこびりついていると、「クルマ! クルマ!」という明らかに違う音声が流れても、耳がそれを受け付けないものらしい。家内はそれでも、変だと感じていた。ぼくは、変だとも思わなかった。ぼくの耳は聞こえていもしない「パジェロ! パジェロ!」を聞いていたのだ。


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