32 正しいウップンの晴らし方

2004.5


 車を運転するようになって20年ほどになるが、その間、交通違反で罰金を払ったことが1回だけある。いわゆるネズミ取りである。この悔しさは捕まってみないと分からない。「ナンデヤネン!」という大阪弁を思わず使いたくなる。

 30キロ制限の住宅地の中の道路を54キロで走っていて捕まったのだ。15年ほど前の、よく晴れた1学期の中間試験中の午後、いつもより早く帰れるのが嬉しくて、ひと昔前の表現でいえば「ルンルン気分」で、住宅地の直線道路を走っていた。こんなマッツグな道を時速30キロなんかで走れるわけがない。みんな50キロぐらいでとばしているところだ。けれども住民がうるさくて、よくネズミ取りをやることは分かっていた。それなのに、すっかり忘れていたのだ。

 罰金一万五千円は痛かった。出たばかりのボーナスから、二万円ほどをようやくゲットした矢先そのほとんどを持って行かれたのだから悔しさもひとしおだった。職業を聞かれて、教師だというと、やれやれといった目で見られたのも腹立たしかった。けれども、こればかりはどうしようもなかった。

 そのどうしようもないウップンを晴らしようもなかったが、ぼくの妹は、似たような体験をして、とても共感できるウップンの晴らし方をした。

 妹はスピード違反ではなく、進入禁止違反だった。自宅近くの、時間によって右折禁止になる道で右折をし、待ち伏せしていた警官につかまったのだ。いつもは滅多に警官などいないところだから油断したのだろう。家に帰っても悔しさのおさまらない妹は、「ワタシみたいに捕まっている人を見たい」と思った。同類を見てウップンを晴らそうとしたわけだ。これはよくある心理で、とても共感できる。不幸なのはワタシだけじゃないんだという事実の確認はとても慰めになるものだ。

 で、妹はすぐに車で家を出て現場に向かった。ところがもう警官の姿はなかった。なーんだ、がっかり、と思って、その現場を通過し、家に戻るために現場から少し先の道を右折した。ところが、そこも右折禁止の道で、そこにまた警官が待ち伏せしていたのだった。

 こうなると「共感できる」域を超えて、ただ呆れるばかりだ。なんと妹はたった15分ほどの間に二度も警官に捕まったのだ。とても人間業ではない。

 運が悪いといえばそれまでだが、やはり人の不幸を望んだバチであろう。悔しくても、ウップンは晴らそうとしないほうが賢明のようである。


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