29 協力ですって?

2004.5


 サザエさんの家では、舟さんとサザエさんがお父さんを家に置いてお芝居なんかに出かけるとなると、それはもう気をつかってしまって、舟さんなどは必ず「それじゃあ、お父さん、行かせていただきます。」と言い、波平お父さんも決まって何だか偉そうに「ああ、行っておいで。」なんて言う。これで波平はおそらくまだ40代の後半という年齢のはずだから、時代錯誤も甚だしいということになるわけで、今ではこんな家族はもうとっくに絶滅してしまったに違いないと思っていたら、どうもそうでもなさそうだ。

 先日の日本テレビのニュース番組の中の特集で、仲のいい友達みたいな母親と娘が増えていますということをやっていて、その「実例」(もちろんヤラセであろう)が紹介された。仲のいい母親と娘が買い物に行こうということになったのだが、どうせならゆっくり都内のホテルに泊まって、食事もして買い物もして過ごそうということになる。都内のホテルの企画商品で、お値段は二人で約8万円。新宿の夜景の見えるスイートルームに豪華なディナー。ねえいいでしょ? とお父さんにねだると、お父さんもシブシブ承知。もちろん、お父さんは連れて行ってもらえないのである。

 ディナー中に携帯でお父さんに電話すると、お父さんはカップうどんとイワシの缶詰を食べている。いったいどういう取り合わせなんだ、もっとましなものを食え、なんてテレビに向かって文句を言っているうちに終わってしまった。さすがに、レポーターも気が引けたのか、今度はお父さんも一緒にと娘さんは言ってましたとフォローしたりしている。ウソつけ! オヤジがきたら台無しじゃないかと、またまた悪態をついていると、中年の男のコメンテーターが、「結構なことだとは思いますが、しかしこれはお父さんの協力があってこそできたのだということを、この際、強調しておきたいと思います。」と真面目な顔して言い放った。

 いったい何が協力なんだ。オヤジ抜きで、都内のホテルに一泊するぐらいのことに、どうしてオヤジの協力が必要なんだ。何にも協力なんかしてないじゃないか。自分はふてくさってイワシの缶詰を食っていただけじゃないか。それならオヤジが外で勝手に飲んだくれて帰ってくるのを待っている女房なんか日々これ「協力」じゃないか。

 現代にも、こんなコメントを平気でする波平みたいなオヤジがまだまだ生息しているのだ。呆れたことである。


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