26 冷たい国、日本
2004.4
子どもが井戸に落ちそうになっているのをみたら、誰だってすぐに助けようとするだろう、それが人間の本性であると、孟子は言っている。苦しんでいる人がいれば助ける。死にそうな人がいれば何とかして手をさしのべて命を救う、それが人の道である。
イラクで3人の日本人が人質となり、3日以内に自衛隊を撤退させなければ殺すと強迫してきた。テレビにはその人質が恐怖に震える映像が映し出され、その家族が命を救ってくださいと涙ながらに訴えている。
それなのに、小泉首相はこわばらせた顔で、「自衛隊の撤退はありえない」と繰り返すばかりで家族に会おうともしない。まるで、おまえらの家族が戦地をかってにちょろちょろするからこんなことになるんじゃないか、と言わんばかりである。福田官房長官も、「自衛隊を撤退させたらそれこそテロリストの思うつぼですよ。よく考えてごらんなさい。」と記者にむかって偉そうに説教をたれる始末。
その二人の発言およびその表情の何という冷たさであろう。こんな背筋がぞっとするような冷たさは、かつて感じたことのない種類のものだ。聞くところによれば、どこかの世論調査では、今度の件について「少しぐらいの犠牲はやむを得ない」とする人が半分を超えているとか。冷たいのは、小泉・福田だけではなく、日本国民もなのだろうか。
高遠さんの弟は、昨日4月9日のニュース23に出演して、「自業自得と言われればそれまでですが」と前置きをした。そんな前置きが口をついて出るということは、どこかで彼に向かって「自業自得」だと言った多くの人間がいるということだろう。
自分は、桜の花びらまいちる暖かい日本で、大福餅などほおばりながら、えたいのしれない連中に目隠しされたり、刃物を突きつけられて殺されそうになっている人間の姿を見て、ボランティアなんて、おせっかいをするからそういう目にあうんだ、自業自得だとうそぶいている冷たい人間が日本には数多くいるのだ。その現実が恐ろしい。
いったい、かれらのどこが自業自得だというのだろう。警備もつけずに戦地へ赴いたのは軽率だという批判はわかるが、だからといってそれが3人が「殺されても仕方ない」という理由にはならない。軽率だったのは、むしろあんなに簡単に自衛隊をイラクに派兵した政府ではなかったか。
「人の命は地球より重い」のである。その大切な命を救えるのなら、自衛隊の撤退を躊躇すべき理由はどこにもない。