17 双眼顕微鏡

2004.2


 双眼顕微鏡というものがある。実体顕微鏡という言い方もあるようだが、とにかく普通の顕微鏡は接眼部、つまり覗くところが一カ所なのに対して、こっちのほうは双眼鏡みたいに二つの接眼部がある。だから双眼顕微鏡という。それで何を見るのかというと、岩石だの昆虫だのといった、輪切りにできない分厚いものを見る。普通の顕微鏡というのは、見たいものをガラスの板に載せて、下から光を透過させて見る。例えば、草の茎ならその茎をカミソリなどで薄く輪切りにして見るのである。そうすると、茎に無数にあいた穴が見える。専門的には導管とか師管といったものが見えるわけである。もともと小さいもの、例えば芋のでんぷんとか、花粉とか、ゾーリムシとかいったものなら、輪切りにしなくても(というか輪切りになんかできない)十分光を通すから、普通の顕微鏡でよく見える。ところが、小さな昆虫なんてことになると、虫眼鏡でよさそうなものだが、1ミリぐらいの大きさの昆虫の羽にいくつの斑点があるかなんてことを調べなくてはその虫の名前が分からなかったりするものだから、そんな虫眼鏡なんぞというものでは間に合わない。だから、虫眼鏡よりもずっと倍率の大きい顕微鏡が必要になる。しかも、虫を輪切りになんかしたら意味がない。そのまま見たい。けれど、そのままだと光を通さないから、普通の顕微鏡ではだめだ。そこで、双眼顕微鏡(実体顕微鏡)の出番となるのである。

 中学生の頃、昆虫採集に熱中していたころ、この双眼顕微鏡はまさに憧れの的、高値の花だった。学校にはあったような気がするが、そうそう自由には使えなかった。自分の家に欲しいと思ったが、もちろん高くて買うことなど思いもよらぬことだった。

 ところが、先日ヨドバシカメラで、その双眼顕微鏡が7000円を切る値段で売っているのを目にした。専門的なものではないけれど、十分使えそうなものだった。思わず手にとりそうになって、あわててその手を引っ込めた。この40年の間、封印したはずの昆虫採集という趣味に再び踏み込んでしまいそうな予感がしたからだ。

 実は、昨年の11月、中1の生徒を連れていった小田原の「生命の星・地球博物館」で素晴らしい昆虫の標本を見てからというもの、体のどこかがうずき始めているのだ。もういちどやってみるか、という思いに時々とらわれる。いい歳をして何で、と思うのだが、しばらくこの気持ちはおさまりそうもない。


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