7 小心者

2003.11


 企業という所に勤めたことがないから、比較のしようもないのだが、例えば名の知れた大企業と学校というところを比べてみると、当たり前のことだが、学校のほうが貧しい。(と思う。)

 大企業の会議に夕食が出るとして、まさかキツネうどんかたま丼かの選択肢しかないということは考えられない。少なくとも、天ぷらうどんか親子丼かのオプションは用意されるに違いない。

 例えば大企業の社員4人のグループが、ある企画を立案するプロジェクトがあったとして、会議費が出るのかどうか知らないが、夜遅くなったので会社の金で夕飯を食べようということがもし可能だとして、その時、夕食代は一人1200円までというようなお達しがあろうとも思えない。ひょっとしたら、店屋物をとるなんてちまちましたことではなく、銀座あたりの高級寿司店に出かけて「時価」の寿司なんかたらふく食べることもあるのではないかと邪推する。

 ところが、学校だと、そういうことがあるのである。そういうことというのは、もちろん銀座のほうのことではない。

 先日、4人の、一種のプロジェクトチームが、とある仕事に取り組み、夜に及んだ。普通はそういう場合でも夕食代などは出ないが、その仕事だけは特別に夕食代が出ることになっていて、そのこと自体は評価すべきことなのだが、その費用の上限が1200円と決まっているのだ。ぼくは以前からそのことに疑問を感じていたので、ある時、上司に「なぜ1200円なのか。根拠を示せ。」と迫ったことがある。(といっても、もっとずっと柔らかい言葉遣いだったが。)しかし結局あいまいな答しか返ってこなかった。

 それでその夜、3人の「部下」に、「オマエタチ、絶対1200円以上のモノを頼め。」と命じてスカイラークに入った。ところがメニューを前にした部下たちは1380円のステーキ丼を頼むのにも躊躇している。「いいじゃないか。たとえこれでクビになったとしても何の悔いがあろうか。」と諭し、結局4人で5500円分食べた。700円オーバーである。

 「ほんとに大丈夫ですか?」と言う小心者の部下たちを尻目に、意気揚々とレシートを持って家路についた。これで明日文句を言われたら、その時こそ逆ギレして文句の百万遍も並べてやろうと意気込んで眠りについたら、何と、上司に叱られる夢を見た。情けないことである。

 翌朝、レシートをよく見ると、ぼくの注文だけ1180円だった。まったく合わす顔がない。


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