6 安上がり

2003.11


 やっぱり子どもは遊びの天才である。

 担任をしている中学1年生の諸君をつかまえて、子ども呼ばわりすれば、ぼくたちはもう子どもじゃありませんと猛反撃を食らうだろうが、やっぱり子どもである。そして遊びの天才である。

 先日、秋の遠足とやらで、小田原にある「県立生命の星・地球博物館」へ行き、その後近くの一夜城に登った。博物館からは3キロほどの道だが、けっこうきつい登り坂である。先生、一夜城なんてどうして行くんですか、疲れるだけじゃないですか。決まってるだろ、お弁当を食べに行くんだ。お弁当なんて、博物館でたべればいいのに……。いちいち文句を言わないと気が済まない連中である。

 そのうち誰かが何かを投げてきた。センダングサの若い種である。センダングサと言ってもイメージがわかないかもしれないが、要するに、服によくくっけて遊ぶ、あの種である。ぼくも子どもの頃はよくあれで遊んだものだ。

 子どもは「投げる動物」である。雪が降れば必ず雪合戦だし、海へ行けば必ず石切をする。で、山では、種を投げるわけである。この種が、毛羽だった衣服の生地にはよく着くのである。

 気がつけば、コーデュロイ風のズボンはセンダングサの種だらけ。子どもたちは、初めのうちはおそるおそる投げていたが、ぼくがあんまり怒らないと見て取ると、どんどんエスカレートしだした。投げるヤツらも、2〜3人から、10数人にふくれあがった。

 そのうち、頭にも種が着地しだした。驚いたことに、決して多いとはいえない髪の毛に、見事に種はぶら下がるのである。さすがは自然の知恵だなどと感心しているうちに、比較的密度の濃い後ろの髪は、種で重いくらいになる。まるでレゲエのおじさんである。種の先が頭皮を刺激してちくちくする。

 ときどき、頭やズボンについた種をとって、反撃に転じる。もう子どもたちは腹をかかえて笑いながら夢中になって種を集め、投げてくる。この世にこれ以上面白いことはないといわんばかりの満面の笑顔ばかり。挙げ句の果てに、ケータイで写真をとるヤツまでいる。

 遠足も無事おわり、早川の駅から電車に乗った。まったく安上がりだよねえ。だいたいさあ、あんな草の種だけで、あれだけ楽しめるなんてねえ。オレたちがあれだけ楽しむにはきっと何万円もかかるよ。それだって、あれほど完璧な楽しさなんて絶対味わえないよ。そんなことを同僚と話している間も、子どもたちの笑い声が頭の中に響いていた。


Home | Index | Back | Next