3 ファブリーズ

2003.10


 ファブリーズのCMってどうも苦手だ。

 いろいろなバージョンがあるが、どれも出てくる家の中のたたずまいが雑然としていて汚らしい。全体的にくすんだ色調も手伝って、いかにもいろんな生活の匂いがごちゃまぜになって家の中に漂っている感じがする。

 匂い消しのCMなのだから、それこそ製作者のねらいには違いないのだろうが、そのごちゃまぜに入り交じった匂いを、シュッシュッとファブリーズをふりかけて消そうとするそのいそいそとした仕草が、なぜかわびしい。貧乏くさい。おまけに、こんなに毎日ファブリーズばっかりしていたら、かえってファブリーズの匂いまでもが混ざって、ますます変な匂いが充満してしまうんじゃないかと心配になる。

 家には家の匂いがあるというが、ぼくはどういうわけか、その家独特の匂いというやつが嫌いなのだ。だから、ファブリーズでその匂いを消そうという心がけ自体は見上げたものだと思うのだが、あのCMを見ると、どうしてもファブリーズが消臭剤というより、木炭画やパステル画の定着のために使うフィキサチーフのように見えてしまうのだ。匂いを消そうとする行為が、それだけその家の匂いを強く意識させてしまうということだろうか。そういえば便所の消臭剤のCMも、「いい匂い」よりも、「臭い匂い」が鼻の奥にツンと感じられてしまって、食事時には見たくないものである。

 中学生が自分の部屋にファブリーズしている。ガールフレンドが来るらしい。それだけでも、見たくない場面なのに、母親がその部屋にズカズカと入り込んできて、「あらどうしたの?」とか何とか言う。ほっといてほしいなあと人ごとながら思ってしまう。見て見ぬふりというのが、親の基本じゃなかったのか。

 中学生が学校から帰ってくる。玄関に迎えに出た母親が「ハンバーガー食べてきたでしょ?」とここでもいきなり聞く。何でそんなことまでいちいち聞かなくちゃ気が済まないんだろうか。学校の帰りにマックに寄ってきたぐらいのこと、匂いで分かったって、黙っているのが母親のタシナミなんじゃなかろうか。これでは亭主もさぞうっとうしいだろうなあと思いやられる。

 匂いで分かるなんていうのは、浮気がばれるときの定番のわけで、それを母親と息子の関係にまで持ち込んでもらいたくないものだ。

 もっともこれも昨今の世相を見事に反映しているという意味でなら、このCMも歴史的・風俗史的な価値があると言えるのかもしれないが。


Home | Index | Back | Next