99 演算速度

2003.10


 

 先日コンピューターを買い換えた。今まで使っていたものにも愛着があったが、やはり速度が遅く、仕事にもストレスを感じることが多くなり、思い切って新型のものを買ってしまった。CPUの速度は約4倍。ぼくの用途はグラフィックの仕事とか、音楽の仕事とかではなく、もっぱらレイアウトソフトを使っての原稿書きなのだが、その処理能力は確かに前の機械に比べると雲泥の差がある。しかし、もっと驚いたのはゲームだ。

 ぼくは、ゲームが大の苦手で、従ってコンピューターゲームとも無縁である。しかし、一昔前囲碁をちょっとばかりかじったことがあって、少しは並べられるので、雑誌の付録についていたコンピューターの囲碁をときどきやっていたのだ。しかし、この囲碁ソフト、以前の機械でやっていたときは、こっちが打った後、何やらウンウンと考え込んでしまって、なかなか打ち返してこない。ひどいときは、1分ほども待たされることもあり、短気なぼくはたいてい途中でやめてしまっていた。

 それが何と、こんどの機械でやってみると、ものすごく速い。布石の段階は前の機械でもそれなりに速かったのだが、こんどのは、こっちが打った瞬間に打ち返してくる。まるで、こちらの手を見透かしているかのようだ。馬鹿にされているような気分になる。おいおい、お前も少しは考えろよといいたくなるくらい、バシッ、バシッと打ち込んでくる。

 頭にきて、こっちも何も考えずにバシバシ打ってしまう。あっという間に終盤に入り、そして寄せ。ここでも可愛げもなく速い。10分も経たないうちに終了。もちろん、ぼくの負けである。4目も置いて打ったのに、それでもこんな無料配布のソフトに負けるなんて、弱いにもほどがあるが、それにしても恐ろしいのはコンピューターの演算速度というやつである。

 こういうコンピューターの途方もないスピードを目の当たりにすると、人間でも頭のいいヤツというのは、こういうもんなんだろうなあと、思わずため息がでる。

 小学生の頃、一緒の塾で受験勉強をしていたTという友人と将棋をやった時のことも思い出される。とにかくTと将棋をやると、こっちがまだ駒を動かしていないうちに、もう詰んでいたという記憶しかない。そんな馬鹿な話はないが、それでもそんな感じがするほど、彼はめっぽう強かった。というか、それほどぼくは弱かった。

 もたもたしているコンピューターが、なぜか懐かしく感じられる秋の一日である。


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