92 ヘナチョコ接続詞

2003.8


 最近気になることばに「なので」がある。

 「なので」は「明日は雨なので家にいる。」というような使い方をするのが当たり前だと思うのだが、最近では文の頭に「なので」を接続詞のように置く使い方をすることが多くなった。芸能人などのトークを聞いていると、まず間違いなく「だから」「ですから」の代わりに、「なので」を使っている。民放のアナウンサーあたりも結構使っているような気がする。「犬を飼いたくても、私の家ってマンションじゃないですか。なので、我慢してるんです。」といった使い方で、「なので〜」とちょっと伸ばすのが一般的。

 これを「だから」に置き換えてみると、確かに言葉としてはどことなくトゲトゲしい。「だから、我慢しているんです。」では、論理が目立ちすぎる。どこか怒っているようなニュアンスがある。

 「だから言ったじゃないの」という松山恵子の歌があった。「どうせ拾った恋だもの」という題。「あんた、泣いてんのね。」というセリフがあって、そのあとに「だか〜ら言ったじゃないの〜」と続く。「だから」には「あれほどそんな恋なんて止めときなと言ったのに。ばか!」と相手をなじるような強い調子がある。これを「なので言ったじゃないの」とは絶対に言えない。歌にならない。どうも「だから」と「なので」は本質的に違う言葉のようだ。

 「だから」はその前の事柄が理由になっていることを示すだけで、後にどういう事柄がきてもおかしくない。「ペットを飼っちゃだめだって大家さんが言うんです。だから、猫を飼うのあきらめました。」とも、「ペットを飼っちゃだめだって大家さんが言うんです。だから、大家さんをぶん殴ってやりました。」とも言える。「だから」は単に原因を表すだけでなく、そこにある種のトゲトゲシイ感情が入りこむらしい。一方、「なので」は前の例にしか使えない。「ペットを飼っちゃダメだって大家さんが言うんです。なので、大家さんをぶん殴ってやりました。」というのはどうも変だ。「なので」は従順でおとなしい言葉なのだ。

 イライラして言葉もないとき「だからさあ〜」とどなることはあっても、「なのでさ〜」では怒鳴れない。国会などでも、「だからどうだっていうんだ!」なら威勢がいいが、「なので」だと、「なので特に反対はしません。」ってなりそうだ。「なので」なんてヘナチョコ接続詞を使ってばかりいると、人間ヤワになってしまうんじゃないだろうか。


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