88 悔しくても楽しいね

2003.7


 一学期の期末試験も終わると、教師は試験の採点などで何かと慌ただしいが、生徒の方は、試験の結果が気になるとはいえ、あとは夏休みを待つだけの気楽な時期となる。教師が成績会議などをやってる間、生徒は自宅学習というのも何だからというわけで、この時期はスポーツ大会というものが催される。

 一昔前までは、中学は中1から中3までのクラスが入り乱れて闘っていたが、中1と中3では、まるで体力が違うから、中1は悲惨なことになる。ドッジボールなんてやったら、それこそ中1なんてただ逃げ回るだけである。それで、現在では、中1と中2、中3と高1、高2と高3というグループに分けて試合を組んでいる。これなら何とか試合になる。必ずしも上の学年のほうが強いとは限らないのだ。

 先日のスポーツ大会で、我が中1Aは、中2とのサッカーの試合で、何と10対0で勝ってしまった。その試合を見損なってしまったので、大会の2日目、準決勝の試合を見に行った。今度も相手は中2である。今度は10対0などとなりようもない緊迫した試合になった。サッカーなどよく分からないぼくが見ても、いい試合と見えた。小学校でサッカーをやっていた子どもたちが多いようで、新学期の最初のホームルームで、「ぼくはサッカーをやりたくてこの学校に来ました。」と大声で言ったサッカー少年S君も大活躍。相手を走らせておいてそこへボールを蹴ったり、なかなか見事なものである。

 しかし、試合は惜しくも1対0で敗戦。ぼくは記念にと、デジカメを持って、試合後の挨拶をし終えたばかりの生徒たちの所へいった。ところがS君はオレンジ色のビブスを脱ぎ始めた。「脱ぐなよ。写真撮ろうよ。」と言うと、キッとぼくを睨み、顔を背けた。半ベソである。他の生徒たちもぼくには目もくれず、俯いたまま行ってしまった。こんな時に写真だなんて、なんてデリカシーのないオヤジなんだと言われているような気がして、慌てて彼らから離れた。

 そうかあ、泣くほど悔しかったんだ。それなのに写真だなんて、悪いことしたなあ、と観覧席に戻って呟いたら、一緒に試合を見ていたI先生が、「いやー、彼らは人生楽しいだろうなあ。」と笑った。そうだね、こんなことでもあれだけ一生懸命になれんだものねえ、とぼくも納得。

 S君は、学校から帰るころにはすっかり元気になり、その後四試合もやったと言って、「もう限界ですよ!」と真っ赤に上気した顔を輝かせていた。


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