84 カラーと白黒

2003.6


 最近コンピュータの雑誌を見ていて、ああそうだったのかと腑に落ちたことがある。それは、プリンターでの白黒写真の印刷のことである。

 その昔、カラー写真が普及しはじめた頃、白黒写真と同様に家で現像やら焼き付けができたらどんなにいいだろうとよく思ったものだ。父が写真が好きだったので、白黒写真用の現像機が家にはあって、高校生の頃はそれに熱中した。本当は暗室が必要なのだが、もちろんそんな贅沢な部屋はない。そこで、夜になるのを待って、部屋の中を真っ暗にして、現像液の中に浮かび上がる白と黒の映像に胸躍らせていた。

 自分で現像作業をすると、コントラストから画像の大きさまで自由自在だったから、こんな面白いことはなかった。これがカラーでできたらどんなに素晴らしいことだろうと思うとため息がでた。

 その頃、写真好きの化学の先生が、自宅でカラーの現像と焼き付けをやったぞといって、その作品を見せてくれたことがある。そんなことができるんだという感動はあったが、その作品の色のひどさにがっかりしたことを覚えている。

 そうこうするうちに時代は移り、パソコンの登場となり、カラープリンターの驚異的な進歩がそれに続き、今ではカラー写真を町のDPE屋さんに出すことのほうが稀になった。カラー写真の色調やコントラストの調整など、何ほどのことでもない。往年の夢は誠にあっけなく実現し、今では感動することもない。

 ところが、カラーに飽きてくると、白黒写真が恋しくなる。カラー写真をパソコン上で白黒写真に変換し、プリンターで出力してみる。ところがこれがちっともきれいではないのである。きれいな白黒の階調が出ないうえに、妙な色がついてしまったりして、なかなか満足いく白黒写真ができないのが不思議でならなかった。

 それがふと目にとまったプリンターの広告で疑問解決。何のことはない。白黒写真の微妙な階調は今までのプリンターの性能ではなかなか出せなかったというのだ。完璧なまでのカラーの表現のできるプリンターが、白黒写真の表現をするにはまだ性能が足りなかったのだというこの事実には、本当にびっくりした。

 いや、びっくりするほうがおかしいのかもしれない。写真の歴史は100年を越える。コンピュータはまだまだ新参ものだ。

 それに、カラーより白黒のほうが単純だとか、劣っているとか思い込んでいたことも、いかにもありがちなこととはいえ、浅はかなことであった。


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