53 ノーベル賞あるいはパンツの穴

2002.11


 小柴さんがノーベル物理学賞を受賞した翌日、田中さんがノーベル化学賞を受賞。田中さんがサラリーマンだったことから、あっという間にマスコミはノーベルサラリーマンとか名付けてアイドルにしてしまった。とても今どきのサラリーマンとは思えない純朴さが、近頃はやりの「いやし系」に通じるのか、さすがのタマちゃんもかすむ人気ぶりで、こちらもその温厚な学者ふうの風貌で「いやし系」では引けを取らなかったはずの小柴さんもすっかり忘れられてしまった感がある。

 それにしても納得のいかないのは田中さんのノーベル賞の賞金が四千万円ほどだということだ。何人かで分けるからそうなるらしいが、それにしても少ない。島津製作所の特別賞与金が一千万円というのも、会社は「どうだ、太っ腹だろう」と思っているのだろうが、たいした額ではない。一千万円なんてベンツ一台買ったらオシマイである。両方足して五千万円では、都心のマンション一つ買えやしない。それを分かっていながら、「田中さん、そのお金を何に使うんですか?」と、まるで田中さんが億万長者にでもなったかのように質問するテレビのキャスターは、年収八百万円というサラリーマンの情けない経済状態を見越した上で、田中さんの「庶民性」を浮き彫りにしようという魂胆が見え見えでいやらしい。

 ぼくらが子どもの頃は、ノーベル賞なんかとったら、それこそ一生遊んで暮らせる位のお金が手に入るものだと思っていた。小学生のころ、先生から「おい、男のパンツに穴を開けることを考えて特許をとったヤツは、それで一生遊んで暮らしたんだぞ。」なんて聞いて、いたく感激したことがあるが、ノーベル賞なんて、パンツの穴とは比較にならないほどすごいんだから、もうどんな莫大なお金を手にすることができるんだろうかとわくわくしたものだ。

 それが四千万円とは、まったく力が抜ける。ジャイアンツは松井を引き留めるために、四年だか五年だかで四十億円を用意したというような話があったが、それに比べたら百分の一である。プロスポーツの世界では、何億、何十億という金が当たり前のように支払われる。それだけ払ってももとがとれるということだろうが、こうした法外な金の話が、世の中を狂わせている。

 子どもたちの理科離れが言われ、将来何になりたい? と聞かれて、「サッカー選手!」とか、「野球の選手!」とか答える子どもばかりが増えるのもムベなるかなである。


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