52 オロナイン・ナンコウ

2002.11


 薬の名前というのはおもしろい。近頃では、アリナミンとかバッファリンとかいった、意味不明だがいかにも薬らしい名前が多いけれど、ひと昔前だとけっこうふざけた名前があって、便秘薬のサラリンとか、頭痛薬のハッキリとか、そのものズバリでおもしろかった。

 正露丸が、もとは「征露丸」で、日露戦争がらみだったんだなんて話をどこかで聞いたが、そうなると薬の名前も歴史モノだ。宇津救命丸なんていうのも、いかにも漢方らしいネーミングだが、あんな小さな粒で「救命丸」とは大げさすぎる。しかし幼いころによく飲まされたような気がするから、今日生あるのもひょっとするとこの「宇津救命丸」のおかげかもしれない。

 しかし、なんと言ってもスゴイのは、「オロナインナンコウ」である。これを説明しなくても分かる人は、おそらく五〇歳以上だろう。どうしてこれがスゴイかというと、これは人の名前だからである。といっても、実在の人物ではない。その昔、大塚製薬提供の「とんま天狗」という人気テレビ番組があって、そのヒーローの「とんま天狗」の本名が「オロナイン・ナンコウ」だったのだ。「とんとんとんまのてーんぐさん」と始まる主題歌の中程に、「姓はオロナイン、名はナンコウ、子どもが大好き、ぼくらの仲間」と出てくるのだ。つまり、通称「とんま天狗」というヒーローは本名「オロナイン・ナンコウ」だというわけである。

 月光仮面の本名(地球での仮りの名?)は、たしか祝十郎で、スーパーマン(この人はどこの人?)の本名はクラーク・ケントだった。みんなまともな名前なのに、これはとんでもない名前である。仮面ライダーの本名が「リポビタン・デー」だったり、ウルトラマンの本名が「ベンザ・エージョウ」だったりするようなものである。今だったら、誰も納得しないだろう。もちろん「オロナイン・ナンコウ」だって納得いかない名前だった。ところが、毎回毎回「姓はオロナイン、名はナンコウ」と堂々と歌われてしまうと、納得どころか、四〇年近くたった今でも思わず口をついて出てしまうほど忘れがたい名前になってしまっているのだ。

 ちょっとでも怪我をすると、今でもすぐ「オロナイン・ナンコウ」をつけるぼくを見て、家内はなんでそうオロナインばかり頼るのかと不思議がるが、何のことはない。「オロナイン・ナンコウ」は「ぼくらの仲間」だったのである。


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