51 ミミズらしいよ

2002.11


 どうして遺跡というものは土に埋まっているのか知ってる? って周りの人に聞くと、火山灰が降り積もったんじゃないの? とか、地殻変動で沈んだのかなあとか、色々な返事が返ってくる。平安時代の遺跡なんか、たかだか千年ほど前のものなんだから、地殻変動というのはおかしいし、京都に火山灰が降ったという話も聞いたことがない。ぼくもずいぶん前から不思議に思っていた。

 十年ほど前だったか、日本の歴史シリーズものの第1巻を読んでいたら、最初にその問題が取り上げられていて、「実はなぜ遺跡が土に埋まっているのかはよく分からない。」と書いてあったので、なんだか虚を突かれたような気がしてひどくびっくりした。それにもまして驚いたのは、一つの説として「ミミズによるという説がある。」と書かれていたことだ。

 土の中でミミズがウニョウニョ動き回って、その結果土地全体が沈んでしまうのだろうか。それで遺跡はいつも土の下にある……。そんなことってあるだろうか。そう思いながらも、あんまり突飛なので、いろいろな所で誰彼かまわず質問をし、分からないというと「ミミズらしいよ。」と言っては、「そんな馬鹿なあ……」という反応を面白がってきた。自分でも半信半疑だったので、「そうだよねえ。ミミズだなんてね。」などと言いながら。

 ところがつい数日前、学校の図書館でぼんやり書架を眺めていたら、『ミミズと土』という題名が目に入った。ミミズが土壌改良に一役かっていることぐらいの知識はあったので、農業の本だろうと思ったが、よく見ると、著者が「チャールズ・ダーウィン」となっている。あの進化論のダーウィンらしい。ミミズの進化について書いているのだろうかと思って手にとってみると、遺跡が土に埋まっているのはミミズのためだというような記述が目に飛び込んできた。ミミズが土を食べて(?)排泄する糞は膨大な量になるとかで、その糞が遺跡を覆うのだという。三百ページにも及ぶその本は、どうやらミミズの驚くべき生態についてのダーウィンの綿密な調査報告らしい。

 「ミミズ説」は何とダーウィンの説だったのだ。いずれゆっくり読むことにして、ひとまずその本を閉じたのだが、ダーウィンがミミズの研究をしていたとは意外だった。エライ学者というのは、何をしているのやら何を考えているのやら分からないものだ。ぼくらも「ダーウィン? ああ進化論ね。」で済ませないようにしたいものである。


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