41 Nゲージの快楽

2002.8


 夏休みになると、近くの京急デパートの催事場でNゲージの運転会が行われる。今年で二年目になるのだろうか、とにかく去年見に行って、ひどく面白かった。なにしろ結構広い催事場に、八畳ほどもあろうかというNゲージのレイアウトで、そこを京急の様々な歴代の車両が縦横無尽に走るのに加えて、東海道線を初めJRの車両、新幹線の車両、はては東急の玉電なんていう小さい電車まで走るのだから、好きな人間にはたまらない。

 夏休みのお子様のためにという企画だが、大人のマニアのほうがむしろ多いくらいだが、何にもましてスゴイのが、そのNゲージを運転したり、運転会の解説をしたりするのが、京急の現役の運転手だったり車掌だったりすることだ。

 去年は幸い、一日に二回しか行われないその運転会を見ることができたのだが、運転手だというその解説者は、マイクを持って、ことこまかにこのレイアウトを作った苦心とか、走っている車両の種類とかを嬉しそうに語るのだった。「あそこの、ちょっと山みたいになっている中腹に、ちょっと洒落た公衆トイレの模型がありますが、あれは○○駅を出てちょっと行ったところで、運転手の目に必ず入るトイレなんです。それで、作ってみました。」なんてもう満面の笑顔。なるほど、毎日同じところを運転していると、馴染みのトイレなんてものも出てくるわけだ。「えーっと、あそこの陸橋の下を見てください。あれだけの電車が併走することはあり得ないのですが、ぼくらの夢でして、今回、作ってしまいました。」もう得意の絶頂である。

 勤務を終えた京急の職員が、毎日集まって苦心して鉄道模型やらそのレイアウトを作る。そして、その京急のデパートで、運転会をすることができる。こんな幸せはないだろうなあと思う。

 今年は運転会の時間はもう終わっていたが、まるで飛行機のコックピットのように並んだコントローラーを前にして真剣に運転状況をチェックする人、ヘッドマイク(?)をつけて、運転手と交信しながら線路を補修する人、彼女らしい人に一生懸命自慢している人など、みなほんとの職場にいるときよりも、ずっと楽しそうだった。

 子どもがまだ小学生の頃、家にも一畳ほどのレイアウトを作って、Nゲージを走らせたものだが、やはりあれは面白い。電車の模型が走っているだけなのに、何であんなに「いい」のだろう。かれらの幸せそうな顔をみていたら、もう一度Nゲージを走らせたくなってしまった。


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