26 串刺しポテト

2002.5


 何だ、ポテトってジャガイモのことなのかと気づいたのは、いつのことだったろうか。ぼくが幼いころ、ポテトというのは、三角錐というより立体的な三角形とでもいうべき形の衣をつけたフライのことだった。もちろんコロッケというのも、小判形をしたジャガイモのコロッケだけで、クリームコロッケなんていう代物は存在しなかった。何とかポテトとか、何とかコロッケなどという様々に差別化した複雑な食品などなく、ポテトもコロッケもただ一つという、潔い時代であったのだ。

 最近ではジャーマンポテトなんていう料理の名前も普通に聞かれるようになり、ビールを飲むときなんか、頼んだりするけれど、いったいジャーマンポテトって何のことだとふと思い、調べたら「ボイルしたじゃがいもとベーコン、他の野菜をガーリックオイルで炒め塩コショーで味付けしただけの簡単な料理」とある。なるほどそう言われてみれば、そんなふうなモノだったような気がする。要するにドイツあたりの家庭料理で、そんなにご大層なモノではないわけだ。でもジャーマンってついただけで、ぐんと箔がつくのも確かだ。抜き難い欧米崇拝である。

 それでも大阪の万博で、比較的空いているからという理由だけで入ったドイツレストランで食べたドイツのソーセージとジャガイモの料理、というよりボイルしたジャガイモと、あと何といったか、酸っぱいキャベツの付け合わせに、単純に感動し、「まるでドイツに来たみたい」と浮かれていたころに比べれば、ドイツだからエライなんて思わなくなって来ているけれど、根本的にはあんまり変わっていない。

 しかし、ジャーマンポテトも真っ青のおいしい「ポテト」が昔あった。

 ぼくの生家のすぐ近くに、酒屋があって、そこの立ち飲み連中のつまみ用にと、酒屋の一角にフライ屋があったのだが、そこのポテトが実にうまかったのだ。三角のポテトを三つほど串にさして揚げる。揚げたばかりの串刺しのポテトをサラサラのウスターソースにじゃぼんと漬けてから、からしを塗ってくれたりする。子供だから酒のつまみにするわけではではないが、お八つ替わりによく食べたものだ。妹などは毎日これを食べないと気が済まず、いつも串刺しポテトを手に持って歩いていたから、うちの職人たちに「イモねえちゃん」なんて呼ばれたりしていた。

 あの串刺しポテトはおそらく焼酎には格好の逸品だったろう。あれでキュッと一杯やってみたかった。




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