4 ウワノソラ

2001.12


 11月に法事をやるから、いつだったら都合がいいかと母親が言ってきたと家内が言うから、25日ならいいと答え、その日に法事をすることが決まり、法事のあとの精進落としは、知り合いの中華料理屋がうまいからそこにしようなんて妹が言ったりしているうちに、当日がやってきた。その前日、学校で同僚の教師に、あしたは法事で、昼は中華を食べるからふとっちゃうなあなんて話しながら、いったい明日はだれの法事なんだっけと思ったけど、どうもはっきりしなかった。

 朝10時前にはお寺に来るようにと前日母親から電話もあったので、遅れじと車を寺に向かって走らせながら、助手席の家内と法事について話していた。お母さんもああいう人だから、きちんきちんと法事をするけど、私たちの代になったらできるかしらねえ。だいたい、お寺は儲けすぎるんだ、やれ3回忌だ7回忌だとそのたびに金をとるんだからなあ。そうねえ、オジイチャンの27回忌なんていうことになると、家にお坊さんを呼んでお経をあげてもらうだけでもいいのかもしれないわね。そりゃあそうだ、そうしようよ。

 ところでさあ、今日はいったいだれの法事なんだい? 何言ってるのよ、そのオジイチャンの27回忌じゃないの。この前ちゃんと言ったじゃないの。

 なんとびっくり。オヤジかなあ、バアサンかなあと、漠然と考えていたのに、オジイチャンとは。そうしようよ、どころではない。今日がその日じゃないか。

 なんだ、そうなのか。そんな話聞いたっけ? 家内は呆れて窓の外を見ている。まったくねえ、あなたはいつもウワノソラなんだから。私はちゃんと言ったわよ。

 この話は危険だ。へたをすると、家内の追究はどんどんエスカレートしかねない。ちゃんと聞いてなかったところからきたトラブルは枚挙にイトマがない。いやー、そうだったのか、オジイチャンが死んでもう27年か、早いもんだ。法事でもなけりゃ、思い出してももらえないもんなあ、やっぱり法事は大事だね。

 なんてごまかしているうちお寺に到着。母親を乗せた妹夫婦の車がないから、しばらくお寺の外で待っていたが、10時近くなっても現れないので、中に入ってみると、彼らはとっくに着いていて控え室で待っていた。そういえば妹の所は最近、車を買い換えたのだった。どこまでいっても、ウワノソラ。天国のオジイチャンもさぞ嘆いていることだろう。もっとも、オジイチャンも、何を言っても聞いちゃいなかったが。


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