91 人間ドック地獄絵巻

2001.9


 検査というものが嫌いだ。人一倍神経質で、小心者なので、何か検査されると、何にも悪いことなんかしていないのに、ドギマギしてしまう。

 検査というほどのものではないが、自動改札も自分の持っている切符やカードをチェックされるわけだから、入れてから出てくるまで、ゼロコンマ何秒という時間だけど緊張する。それがピンポンとか鳴って、止まれ! おぬしは何を入れたのか! とばかり、通せんぼされようものならほとんど逆上する。もちろん外見上は平静を装っているが。

 改札口でピンポン鳴っても平静は装えるが、血圧となると正直なもので、絶対ウソはつけない。

 検査嫌いなぼくには、年1度の人間ドックなんてものは、呪いのことばを投げつけたくなるほど嫌なのだが、義務づけられているし、それをネグル度胸もない。それで毎年、仲間よりずっと遅れて夏休みに出かけている。

 検査は血圧測定から。高血圧という結果は分かっているのに、計る前からもうドキドキ。「じゃ、もう一度、深呼吸してくださいね。」ということで二度計る。「うーん、高いですねえ。」「いいんです、こういう所、ダメなんです。家だと20は低いですから。」看護婦さんは笑って納得してくれるが、「情けないオヤジだ。」ってきっと思ってるだろうなあと、みじめな気分。

 「気分は悪くないですかあ。」と言いながら、人差し指大の容器に5本も血を採る。もちろんぼくは顔を背けて、「平気です。」と答える。採血は得意だ。気分なんか悪くなるわけないじゃないかと、少し攻勢にでる。もちろん口には出さない。

 次の検査を待っていると、採血中の屈強の男が椅子から転げ落ちた。気を失ったのだ。看護婦さんたちがまわりを囲んで、足を持ち上げたりしている。なんだおれよりだらしないヤツもいるんだとますます強気になる。

 すると、突然胃の検査室の扉がガタンと開いて、中から「ダイジョウブですかあ。」という女性検査技師の大きい声。見ると若い男が、口のまわりや、ノドのあたりを白く染めてヨロヨロと出てきた。バリウムを吐いてしまったらしい。「地獄だあ。」なんて一緒に来ている仲間に言っている。さっきまではしゃぎ回っていた仲間の連中はシュンとして「やだなあ。おれも初めてなんだ。」なんてヒソヒソ。

 バリウム撮影がなんで地獄なんだ、オレなんか大腸内視鏡検査を3回もやってるんだぞと、もう心の中は大先輩気分、威風堂々、胃の検査室へ入っていった。


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