89 速いぞ!京急。

2001.8


 

 

 この世に生まれ落ちてからこのかた、ずっと京浜急行沿線に住んできた。沿線といっても、線路から300メートルも離れていないという正真正銘の沿線だ。駅名でいうと、生まれてから結婚するまでの23年間は、南太田駅。これは線路までの距離が一番遠くて200メートル。次が結婚して1年だけ住んだのが生麦駅で、だいたい80メートル。最後が今住んでいる上大岡駅。これは多分30メートルぐらい。家の窓から電車の屋根が見える。だんだん距離が近くなっている。

 京浜急行とともに半世紀。京急から表彰されたっていいくらいなものだ。

 世の京急ファンなら、涎が垂れるってとこだろう。ご存じない方も多いだろうが(ぼくも詳しく知っているわけではないが)いわゆる鉄道マニアにおいては、わが京浜急行は特に人気の高い私鉄なのだ。京急に乗るために、わざわざ遠方からやってくるというマニアも多い。

 なにがそんなに魅力なのかというと、専門的にはいろいろあるらしいが、一番分かりやすいのが、速いということだ。すこし前までは、新幹線の次に速いのが京急といわれていたらしい。知り合いの「超」のつく鉄道マニアによれば「乗っていて死ぬかもしれないと思える唯一の電車」なのだそうだ。それほど速い。

 新幹線は、全線高架でもちろん踏切はないし、すぐ近くに家があるわけでもない。しかし、京急は踏切もあれば、家並みの間をすりぬけるように走るところも多い。そこを100キロを越した猛スピードでぶっとばす。

 ぼくが中学生のころ、つまり40年近くも前のことだが、この京急を使って通学していた。富岡という駅と屏風ヶ浦という駅の間に杉田という駅があるが、ちょうど杉田駅がすり鉢の底にあたるような地形になっている。特急がそこを通過するときがすごかった。ぼくらは運転手席のすぐ後ろに陣取って、スピードメーターを食い入るように見たものだ。最高時速は115キロだった。

 40年前の車両で、115キロである。車体は揺れるなんてものではない。座っていても、座席から20センチぐらいは飛び上がってしまう。本など読めたものではない。

 あんまり速いので、止まるべき駅に着いても、なかなか停車位置にぴたっと止まれない。20メートルぐらいはすぐに行き過ぎてしまう。ぼくらは、すごいスピードを出した運転手の顔をホームにおりたあと見にいったものだが、行き過ぎてしまっても、運転手は満足げに微笑んでいたように思われた。













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