86 デフレじゃだめ?
2001.8
世はデフレなのだそうである。経済のことはよく分からないが、要するに、物を買う気にならないということなのだろうか。次から次へと新製品が発売されて、みんなが熱に浮かされたように我先にとそれに飛びついたのがインフレなのだろうから、何が出ても、フーンそうかあ、って思うだけで、別になくてもいいやと財布をしまってしまうこの頃は、デフレということになるのだろう。
デフレ下では経済は停滞し、世の中がどことなく元気がないということになるわけだし、現在の完全失業率も最悪ということだから、いいことはないのだろうが、バブルのころのバカ騒ぎよりはマシなような気もする。
インフレ状態では、「ないもの」に目がいく。「あれもない、これもない、ああ欲しい。」と思ってしまう。いくらたくさん映画のビデオを持っていても、まだ持っていないビデオが気になって、なんとかそれを手に入れようと躍起になる。いくら大きなテレビを持っていても、もっと大きなテレビ、もっと画質のいいテレビが欲しくなる。作る側も、そういう心理につけ込んで、いやそいう心理を作り出して、新製品を売りまくってきたわけだ。
デフレになると、「あるもの」に目が向き始める。今持っているものをじっくり眺めるようになる。「ああ、こんなものを持っていたんだ。」と初めて気づいたりする。持っていたものを、じっくり使ってみようという気になる。だから、新しいものを買う気になれない。
タクシー業界も不振だそうだが、ちょっとそこまでという時でも気軽にタクシーに乗っていたのに、自分には「足がある」ということに気づくと、「なんだ、歩くのもいいじゃないか。」って思って、歩いてみたりする。必ずしもお金がもったいないからではない。
日本人はひょっとすると「なんだ、おれたちは、こんなに豊かなんじゃないか。」って、どこかで気づきはじめたのかもしれない。経済的な豊かさではなく、金とは関係ないところで味わえる豊かさに気づいたのかもしれない。
これに本当に気づいてしまうと、経済はとんでもないことになるだろう。ものがまったく売れなくなってしまうからだ。デフレの行き着くところは、市場経済の崩壊だろう。いっそそこまで行ってみれば面白かろうなどとアブナイことも考えるが、しかし、世の中をつらつら見ると、どうもその心配はなさそうである。相変わらずのグルメブームのようだし、深夜の電車は酔っぱらいの天国なのだから。
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