82 続いている

2001.7


 

 

  まったく言語道断の暑さである。梅雨がまだあけていないというのに、35度、36度の日が続いている。

 この4月から、17年間も続けていた自動車通勤をさっぱりとやめて、電車と徒歩で通勤することにした。最初のうちは周りの人間もまるで信用しなかった。どうせヤマモトさんのやることだ、まあ2日と続きはしまいなんてクチサガナイ教師たちは言った。

 同僚は無責任に言いたい放題言っていればすむが、家内ともなればそうはいかない。交通費の問題である。定期を買わずに通勤したら、ガソリン代の何倍もの費用がかかる。そうかといって、定期を買うとなれば、最低でも1ヶ月。定期は買ったが、はい止めますでは損失は甚大。何事も長続きしない、行きあたりばったりのこの夫をどこまで信用してよいものかと、ずいぶん悩んだに違いない。それよりもぼく自身が自分をどこまで信じていいものか皆目分からなかった。

 そうは言っても、何事も長続きしないぼくにも、時々長続きするものがあることはあるのである。

 都立青山高校に勤めはじめて2年目のころ、通勤電車の中で心臓発作みたいなものを起こしたことは以前にも書いたが、それ以来、発作を起こした東急東横線にどうしても乗ることができなくなって、通勤経路を東海道線に変更した。ところが、東横線では座れていたのが、東海道線では座れない。まだ20代の若さなのに、早くも腰痛の持病を抱えていたぼくは、とにかく座りたい一心で、とんでもない早い時間に家を出ることにしたのだ。

 朝6時起床。6時15分に家を出る。そうすれば座れることが判明したのだ。ある日その通りに実行し、学校に着くと、ぼくよりも何十分も遅くやってきた同僚の教師たちが、目を丸くしていったいどうしたと言うから、事情を話すと、みんな鼻の先でせせら笑って、そんなの続くわけがないと、東京オリンピックの開会式のラッパのように口をそろえて言ったものだ。

 しかしそれから5年間、その時間の通勤をやめることはなかったのだ。

 一応そういう実績もあるので、家内も定期を買うことに同意し、なんと3ヶ月定期を4月に買ったのだが、その定期もとうとう先日期限が切れた。めでたいことである。

 めでたいことなのだが、連日のこの暑さなのである。なにしろ登校路には生徒でさえネを上げる急な坂道がある。それでも「続ける」ためだけに、汗みどろになりながら、歩いている。ケナゲと言えば言えなくもない。








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