81 だんだん暗くなっていく
2001.6
数年前から、テレビのCMで、妙に彩度の低い、暗い画面のものが目立つようになった。極彩色の派手な色合いのCMばかりではかえって目立たないので、こういうものがはやるのだろうと勝手に納得していた。
ところが半年ほど前、あまりにぼやけた色調のCMの氾濫を前に、これはひょっとして、家のテレビのせいではないかとふと思った。気がつけばなんでもないことで、やはり家のテレビが古くなって、ブラウン管が傷んで、暗くなっていたのだ。29インチの大型テレビだが、87年製。無理もない。
以前、妹の家のテレビを見ていたら、ワイドテレビでもないのに、上下が切れていて、映っている人物が上下に80パーセントほど寸詰まりになっているのに気づいて、「こりゃひどいや。何でこんなテレビ捨てないんだ。」って言うと、妹はキョトンとして「どこが変なのよ。ちゃんと映ってるでしょ。」と言い張り、いくら画面を指さして人物が上下に押しつぶされてしまって、プロ野球の選手もまるで七人の小人みたいであることを力説しても、一向に聞き入れるふうでもなかった。
まったく、こんなひどい状態になっても気づかないなんて、無神経なヤツだとさんざんののしったのに、何のことはない、結局自分も同じ穴のムジナであった。ぼくのゴウゴウたる非難のためか、妹の家では間もなく本物のワイドテレビをめでたく購入したのだが、こっちはなかなか新しいテレビを買う決心がつかない。
何度も近くの家電店に家内と出かけては物色してみるのだが、いつでも「まあ、あれが壊れるまでいいか。」という結論になってしまう。
こんなことは5年前のぼくなら考えられなかったことで、ちょっとでもテレビの映りが悪くなったとなれば、すぐに最新型のものを買わなければ気がすまなかった。家内もそんなぼくの我が儘にずいぶんと手を焼いてきた。
ところが最近では、ドラマや映画の夜のシーンなんか何が何だかわからないほど画面が暗くても、「ま、いいか。セリフが聞こえればだいたい分かるし。」なんて思っておしまい。第一、毎晩のように夫婦二人でサスペンスを見ていても、二人揃って起きていることはめったにない。たいていどちらかが口を開けて寝ている始末。
画面の美しさがどうのとカタログを見て比べていた時代がばかばかしく感じられる。だんだん暗くなっていく画面が味わい深く感じられてしまう。これは、やっぱり老人の入り口なのだろうか。
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