75 ショーブ湯

2001.5


 

 

 「それはね、ショーブという草があってね、それをお風呂に入れるわけなのよ。」

 ラジオをつけたら、こんな言葉が耳に飛び込んできた。30歳ぐらいの女性の声。それに続けて若い女の子が、「へー、そうなんだあ。」とびっくりしたように答える。

 では、この若い女の子は「ショーブ湯」を何だと思っていたというのだろうか。ラジオだから巻き戻しはできない。どうも気になる。ふと思ったのは、この子は「勝負湯」と思ったんじゃなかろうかってことだ。昨今の、やれ「勝負パンティ」だの「勝負ブラ」だのという、まことに品のない言葉の氾濫にまきこまれて、この子はそういうのがあるなら「勝負湯」ってのがあってもいいじゃんって思ったのではなかろうか。しかし「勝負湯」ってどんなもんかなあと、あらぬ妄想が浮かびかかったとき、若い女の子が言った。

 「ショーブって、どんな草?」

 植物オンチみたいな人は結構多いもので、妹の亭主なんかは、何の花をみてもチューリップだと言うらしいし、先日学校のトイレである仲間の教師とならんでオシッコしていたら、目の前に飾られていたスイセンを見て、「ヤマモト先生、これはスイートピーですかねえ。」って言うものだから、思わずオシッコを脇にそらしそうになってしまった。

 さて、今度は若い男が答える。「ほら、あのきれいな花が咲くやつだよ。花びらが大きくて、こう、たれ下がって。」「そうそう、きれいな花ですよねえ。」と30ぐらいの女性も相づちをうつ。若い女の子もどうやら納得した様子。かれら3人の頭の中には、めでたく「菖蒲園」に咲き乱れる華麗な花のイメージが浮かんだようである。

 しかし、これがまた大間違いなのである。おそらくこのラジオを聞いていた多くの人もこの会話の間違いには気づかなかったはずだ。読者の皆さんはどうだろうか?

 「菖蒲湯」に入れる「菖蒲」にはきれいな花は咲かないのである。(菖蒲は、葉の根本近くに棒状の花茎に小さい花が密生する)ラジオの3人がイメージした花は「花菖蒲」の花だ。「花菖蒲」とは「花の咲く菖蒲」の意味で、「菖蒲」の花が目立たないからこそこの名がある。「菖蒲」は「サトイモ科」だが、「花菖蒲」や「アヤメ」や「カキツバタ」はみな「アヤメ科」の植物で、「いずれがアヤメ、カキツバタ」という言葉があるように、花の形はよく似ている。

 ついでに言うと、この菖蒲は、昔はアヤメ草と呼ばれていた。何ともややこしいことである。





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