72 パリの折り畳み傘

2001.4


 

 

  NHKには、世界の天気というコーナーがある。北京は晴れですとか、パリは肌寒いでしょうとかいうのだが、あんなにおおざっぱで役に立つのだろうかといつも不思議に思う。もっとも、中国は雨でしょうとか、フランスは霧でしょうって言ってるわけではないから、それで結構役立っているのだろうとは思うけれど、実際にその情報が役立ってるという人がそう多いとも思えない。それとも、明日のパリの天気情報が日常的なレベルで必要とされるほど、国際化が進んでいて、ぼくがその波に完全に乗り遅れているというだけのことなのだろうか。

 先日、その「世界の天気」で、「パリは小雨が降るかも知れませんので、折り畳み傘を持っているとよいでしょう。」とキャスターが言ったのを聞いて、思わず耳を疑った。このニュースが当のパリで流れているならともかく、日本でこのニュース番組を見ていて「パリは小雨が降るかも知れませんので、折り畳み傘を持っているとよいでしょう」と言われて、折り畳み傘をバッグに入れて、成田空港に向かうヤツがいるだろうか。パリに着いた時は、そもそも日本で言っていた「あした」はいつになっているのか。やっぱり不可解である。

 パリは湿気が少ないから、冷水を入れたコップも結露しないのだということを、どこかで聞いたことがある。雨が降っても、コートの襟を立てるぐらいで、大げさに傘などささないんだとも聞いた。フランス映画なんか見ていると、そんなシーンが確かに多い。

 そういえば、西部劇なんかでも、河を渡るときなど、ジーンズをはいたままジャブジャブと入ってしまう。大井川の渡しみたいに、ジーンズを脱いで丸めて頭の上にのせて、パンツひとつで河を渡っていくカウボーイなんて見たことがない。なんて無神経な連中なんだろうと昔は理解に苦しんだものだが、あれも空気が乾燥しているから、すぐ乾くということなのだろうと今では納得している。

 日本は湿気が多くて、一度濡れるとなかなか乾かないから、「濡れる」ことを嫌がるのだ。してみると、ひどい雨ならちゃんとした傘、小雨が降るかもしれないという程度なら折り畳み傘なんていうふうに、神経質に雨対策を考えているのは、ひょっとしたら日本人だけなのかもしれない。

 フランス人は、折り畳み傘を持っているのだろうか。





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