60 ローズの女房

2001.2


 

 

 去年まで、ベイスターズの星だったローズは、幾度か引退するのしないのとグズグス言っていたことがある。今年は、とうとうやめてしまって、アメリカに帰るのかと思っていたら、どこかの球団に入るとかいう話があって、その後どうなったか知らないが、とにかく、退団とか引退の理由というのが、「家族と過ごす時間を大切にしたい」といういかにもアメリカ人らしい(ほんとにそうなのか?)理由だったのにはガッカリさせられた。

 外国人選手のその手の話を聞くたびに、いつも、クダラナイなあって思ってしまう。奥さんがお産なので、といって、シーズン中なのにさっさと休暇をとってアメリカに帰ってしまう選手を、「家族を大事にするいい人」と誉める日本人も少なくないけれど、大切な公演中なので、親の死に目にも会えませんでしたという日本人の役者の方が、なんか立派だなあと思ってしまう。

 「家族を大事にする」ということは、もちろんいいことには違いない。「家族をナイガシロにする」というのはとても悪いことであることも間違いない。しかし、だからといって、「家族のシアワセ」がすべてに優先する最大の善だとは、どうしても思えない。

 たとえば、ぼくみたいなハンパな人間が、ハンパな仕事をしているにもかかわらず、家族を顧みないで連日帰りが遅くなって、家族との会話もないとして、奥方に「あなた、仕事と家族とどっちが大事なんですか」と詰め寄られて、「そりゃあ仕事だよ」って言ったとしたら、やっぱり「どうかしてる」って思われても仕方ない。

 しかし、何万人(何十万人?)というファンを抱えるローズである。ローズの一発は、何万人という人間を狂喜乱舞させ、その憂いを吹き飛ばしてきたのだ。そんな人間にとって、「家族」とは、そも何であろう。ローズの女房は、夫ローズに向かって「アタシと試合とどっちが大事なの?」なんて聞ける権利がそもそもあるのだろうか。

 思い上がりもはなはだしいのだ。ローズはローズの女房だけのものではない。ローズの女房は、何万人というローズのファンのために、自分のつかの間のシアワセなんてさっさとドブに捨ててしまうべきなのだ。「友のために、命を捨てるより大きな愛はない」と、イエスも言ったではないか。それならば、夫のファンのために、「孤閨を守る」ことがどうしてできないことがあろうか。

 ローズも、鼻の下を伸ばしている場合ではない。










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