53 イボ

2000.12


 

 

 ぼくの額、というか、前頭部の前の方に、イボがある。正確にいうと、イボではなく、腫瘍の一種だと皮膚科の友人が言っていたが、悪性のものではないから切除する必要はないらしい。でも取ってやるから病院へ来いと言っていた友人は、仙台に引っ越してしまったので、結局そのままになっている。

 そのイボ(一応そう呼んでおく)は、その昔から、たぶん20代のころからあって、その頃は頭髪の中に埋もれて外からは見えなかった。櫛をとかす時に、ひっかかったりするので、もちろんぼくはその存在を知っていた。それが、一躍世間の脚光を浴びたのは、頭髪の中から姿を現してからである。有り体に言えば、禿げてきてからのことである。

 最初は、恥ずかしげに、生え際のあたりからチラチラ顔をのぞかせていたのに、いつの間にか、生え際から離れはじめ、やがて、広々とした額(とおぼしき場所)のなかに、ポツンと存在するようになった。光る砂漠の中に、突然現れたオアシスのようなもの、いや、小山のようなもの。目立つことはなはだしい。

 ときどき、皮膚科の友人のすすめを思い出し、切除しようかと思いつつ、なぜだか、愛着もあって、どうしてもその気になれない。

 ところで、このイボに強い興味を示すのは、決まって子供である。赤ん坊などをだっこすると、きまって紅葉のような手をイボの方に伸ばしてくる。生徒でも、中学2年生ぐらいまでは、異常に興味を示すヤツがいて、失礼にも触ってくる者までいる。

 「オジサン、これ、なーに?」って聞いてくる小学生には、「これはね、ボタンだよ。このボタンを押すとね、顔がツルンとむけて、違う顔が出てくるんだよ。」なんて言うと、結構ウケたりするが、中学生だともちろんバカにされる。

 ときどき、大人でも興味を示す人がいる。きまってそういう人は、幼児性の強い、芸術家肌の人である。実際に触らせてくれと言われたこともある。

 つい先日、テレビで、「イボをとった後の千昌夫」を見た。遠目に見たときは、誰だか分からなかった。アップになって、何だ、千昌夫かと気づいたが、まるで別人である。様々な辛酸をなめて、一念発起、イボをとってやり直すということだったらしいが、なんだか、アクがなくなって、ただのオジサンになってしまったような感じがした。千昌夫のアクドサは、あのイボに集約されていたようだ。

 やはり、イボはとるまい。一念発起するようなこともないことだし。











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