37  アオマツムシ遺聞

2000.9


 

 アオマツムシのことだが、もう少し詳しい情報が入った。たまたま教育テレビを見ていたら、昆虫学者の矢島さんという方が出ていて、都会の虫の異変としてアオマツムシのことを取り上げていた。さすがは、餅は餅屋、半端な知識ではない。

 前回、ぼくは「もう何年になるのか分からないが」と書き出している。この「何年」というのは、だいたい5〜6年という感じで書いたのだが、矢島さんによると、アオマツムシが日本に渡来したのは、明治時代なのだそうだ。ただし、そのころは大繁殖には至らず、むしろ「珍しい虫」扱いだったという。

 関東を中心に次第に増えていったアオマツムシだが、関東大震災で(そしてたぶん第二次大戦でも)激減したが、その後盛り返し、東京そして横浜あたりで、大繁殖をしているというのだ。現在では関西にもいるという。北の地方には広がらないらしい。

 ぼくがすでに指摘したとおり、この虫は樹の上で鳴く。しかも、一生樹木の上で生活し、一度も地上に降りないという。卵も、樹上に産むのだそうだ。

 日本の秋の虫は、地面で鳴く(コオロギとかスズムシ)か、背の高さぐらいの低木で鳴く(カンタンとかカネタタキ)かのどちらかで、それより上の空間は「空いた空間」であった。その「空いた空間」を占拠したのがアオマツムシだったのだそうだ。だからその声は常に上からふりそそぐのである。ぼくが描写したとおりである。

 そんなわけで、ずいぶん昔から鳴いているのに、多くの人はそれが虫だと気づかないという。一つには、やはり日本の虫は地面の方から、つまり下の方から声が聞こえるものだという先入観があるから、上から降ってくる声が虫の声だとは思わないということ。確かに、もしセミが地面で鳴いていたら、誰もそれをセミだとは思わないだろう。

 もう一つの理由は、あまりにも都会が様々な騒音に満ちているので、その音に混ざってしまってしまうからだそうだ。確かに、赤い灯青い灯の大都会東京の夜などいうものは、いちいち一つ一つの音や声を聞き分けようなんて殊勝な気持ちを起こさせるものではない。ほら虫があんなに鳴いてますね、と矢島さんが言っても、そう言われた人はキョトンとしているだけだという。

 横浜あたりのチョットした郊外に住んで、敏感な耳を持っていると、おや、アオマツムシだ、と気づくわけである。(エヘン)

 もう一つの情報。アオマツムシの出身地は、中国の福建省だそうだ。以後お見知りおきを。






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