30  アウトドアなんて知らないよ

2000.7


 

 着火材というものがあることを、先日テレビではじめて知った。透明なゼリー状のもので、プラスチックの入れ物に入っている。野外でバーベキューなどをするとき、それを炭の上に絞り出して塗りつける。そうすると簡単に炭に火がつくらしい。

 ところが使い方を間違って、火のついた炭の上にその着火材をたらそうとすると、たちまち引火して、手に持っていたプラスチック容器が火を噴いて爆発。顔や手に大やけどを負ったというケースが最近結構あるので注意してください、ということだった。番組では、実際にキャンプ場で、着火材を使っている人に、使い方を知ってますかとインタヴューをしていたが、「えっ、そんなんっすか? 知らなかった。」とか「説明書なんて読まないよなあ。」なんていうヘラヘラした答えが返ってきていた。

 そういう無神経な連中ばかりがアウトドア派だとは思わないが、それにしても、昨今のアウトドアライフとやらには辟易する。

 そもそも誰が考えたのか知らないが、炭にゼリー状のものを塗るという行為に何の感覚的な抵抗も感じないということからして理解できない。炭に対する侮辱である。炭というのは確かに火がつきにくい。新聞紙、使った割り箸や小枝、消し炭という順に火を起こし、ようやく炭に火がつくものなのだ。それをめんどくさいからといって、ゼリーみたいなドロドロしたものを、きれいな炭の肌に塗りつけて火をつけるとは何事だ。めんどくさいなら、はじめから炭なんて使うな。

 その炭だって、スーパーなどの大型店の、アウトドアコーナーから買ってくるんだろう。(炭は炭屋で買うもんだい、ベラボーメ。)様々な便利なアウトドアグッズを山ほど買い込んで、それを4駆のワンボックスカーかなんかに乗せて、山や海へと繰り出す。河原や砂浜に平気で車を乗り入れ、そこに棲むいたいけな生き物には目もくれずに踏みつぶしておいて、炭にゼリー塗りたくり、冷凍肉やら、スーパーで買った野菜やらでパーベキュー。それで「やっぱり自然の中で食べると、いちだんとうまいなあ。」というおきまりのせりふだ。あとは、酒飲んで騒ぎたいだけ騒いで、花火やってカラオケやって、仕上げにゴミの山を残して立ち去るという始末。

 心なきアウトドアライフは、自然の敵だ。むしろ庭のツユクサをビンに差し、食卓に飾ってしばしの涼を味わうようなインドアライフにこそ、しみじみとした自然への愛がある。





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