22 是か非か、ソバすする音

2000.5


 

 めん類を音を立ててすすり込むのは、日本人独特の食べ方で、外国人はこの音に不快感を示すそうである。いや、日本人でも眉をひそめる向きは少なくない。でも、音を控えようとしない。「音高くすすり込むのど越しがだいご味なんだ。しこしこかんでどこがうまいか」と言い張る。だから、あの音が嫌でそば屋には行かないと言う人もある。議論を始めようものなら、なかなか決着には至らない。すすり込むというめん類独特の食べ方が生まれたのは、めんが長いからだという説がある。短く作れば食べ物一般のような食べ方になるはずという。また、はしを使うせいだという説もある。フォークなら巻きつけて固まりにして食べるはずだという。理由はどうであれ、あの食べ方は、当人は満足していても周囲に嫌がる人もいることは確かだ。この点をどう考えるかが問題である。

 5月の毎日新聞に載った投書である。81歳の無職の男性とある。あまりに面白いので、失礼ながら無断転載してしまった。

 この投書はちょっと読むと一般論のように見えるが、その一般論の裏に、ありありと実体験が浮かび出てくる。簡単に言ってしまえば、「オレはめん類を音を立ててすすり込むのが大嫌いなのに、オレの知り合いの頑固ジジイは、やめろと言ってもやめやしない。そればかりか、へんてこな理屈をくっつけて楯突いてくる。まったく頭にくる。」ということである。それをそのまま言わないで、一般論として強引に展開したところ、世にも珍妙な文章が出来上がったというわけである。

 「外国人は不快感を示すそうだ」と話をグローバル化し、「いや、日本人でも眉をひそめる向きは少なくない」と、外国人を権威の後ろ盾としつつ、話を日本人に持ってくるが、「眉をひそめる向き」というのは、何のことはない、当の筆者なのだ。あとはこの人の知人の頑固ジイサンの言い草となる。

 それにしても何という「説」だろう。いったいどこに「食べ物一般」というものがあるのか。そもそも「食べ物一般のような食べ方」とはどういう食べ方なのか。「短く作っためん」なんて「レンジでチンしたかき氷」「つぶして丸めた綿菓子」みたいなものじゃないか。はしにめんを巻き付けて食べることだって、フォークでそばをすすり込むことだって、何だって出来るぞ。

 いやはや投書は面白い。この投書なんか、編集者はどういう意図で採用したのだろうか。ぼくにはどうしても「笑えるから」としか思えないのだが。



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