20 一日美人郵便局長

2000.5


 

 ケーブルテレビに加入しているわけではないが、ときどきおまけの放送があって、地元のテレビ局の番組をみることができる。ぼくが住んでいる磯子区のとなりの港南区の局があって、地域のニュースなんかをやっている。スタジオなんてものではなくて、事務室の一室みたいな所に強引にテレビカメラをおいているので、男女ふたりのキャスターが画面いっぱいに映っている。「このリースをこうやって頭にかぶると、マラソンの選手です」っていうギャグをやろうとすると、リースが画面からはみ出してしまう。キャスターの後ろに、ヘッドホンをつけたスタッフがちらりと見えて、笑っていたりする。学校放送みたいなものだ。

 しかし、こういう貧乏くさいところに何故かほっとするということもあって、つい見てしまう。

 「先日は、逓信記念日でわが局の○○が、港南郵便局の一日郵便局長になってきました。」ということで、まあ美人と言える局アナが、例のタスキをかけて、一日郵便局長になり、いろいろ仕事をした様子が放映される。キャスターは「いいですねえ。一日郵便局長なんて一度やってみたいもんですねえ。」なんて言ってる。ほんとかなあ、ってつぶやいてしまう。

 そもそも何が面白くて「一日警察署長」だの「一日駅長」だのというのをやるのだろう。あきれるほどの旧態依然の田舎ぶりである。やってるほうも全然楽しそうではないし、その「一日なんとか」を世話する人間も、妙に緊張したりしている。

 緊張しているといえば、逓信記念日の式典。たった30人ぐらいの内輪の式典なのに、れいれいしく日の丸を飾り、紅白の幕を会議室に張り巡らし、しかつめらしい顔をして、表彰状なんかを拝受したりしている。テレビに映っているからかも知れないが、坐っている人たちも石膏のように固まっている。式典自体が死後硬直しているみたいだ。

 なんでもっとくつろいでできないんだろうか。表彰状を渡すときにも、渡す方がジョークの一つも言って、もらったほうも、気の利いた一言ぐらいあったっていいじゃないか。あとは和気藹々で、その場でビールで乾杯ってふうにどうしていかないのか。どこからどこまで、どんな小さな集会での表彰も、天皇陛下からいただく勲章の授与式のミニチュア版になってる。つくづく変な国である。

 どうせ「一日美人郵便局長」をやるんだったら、今日の消印は私のキスマークですなんて、そんなことは、出来っこないか……。


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