15 ああ、白虎隊

2000.4


 

 会津若松でふと口をついて出た白虎隊の歌は、三橋美智也の『ああ、白虎隊』であることはわかった。分かったら、後はCDを買えばいい、そうすればいつでもその歌を聞けると簡単に思っていたら大間違いだった。かなり大きなミュージックショップに行ってみたが、三橋美智也のCDなんてほんの数枚があるばかり。それでも、さすがに往年の名歌手だけあって、2枚組の全集が出ている。しかし、その全集の収録曲には『ああ、白虎隊』はない。『ああ、新撰組』ならある。新撰組は白虎隊の親分みたいなものだからあってもおかしくないが、それにしても、あんなに有名な歌だとばかり思っていた白虎隊の歌の方が、全集にも入っていないとはどうしたことか。

 そこで、レジの店員に聞いてみた。店員は親切にも、分厚いカタログを取り出して丁寧に調べてくれたのだが、やはりなかった。「そうかあ。ないんだねえ。」「三橋美智也は、舞踊歌謡みたいなのをたくさん歌ってますからねえ。そういう歌は、シングル版で出ただけで、アルバムには入らないことが多いんですよ。」なかなか詳しい人だ。舞踊歌謡というジャンルがあったとは知らなかったけれど、そういえばドーナツ版のジャケットの裏に、踊りの振付の絵が書いてあるのをよく見かけた。そういう振付をおぼえて、夏祭りの神社の境内なんかの舞台で町内のオバサンが厚化粧して踊っていたっけ。なるほどそういう需要が昔はあったのだ。

 「ほんとに聞いたことないの? あんなにオレは聞いた歌なのになあ。」「そうねえ……」と家内は考えている。家内は同い年だから、どこかで聞いていてもおかしくない。もっとも三橋美智也とか日本民謡なんかを聞いていたぼくは特殊な高校生だったろうから、あんまり接点はないといえばないのだが。

 「そういえば、おばあちゃんが、踊りをやってたんだけど、そんな歌があったみたいな気がするわ。」と家内がいう。そうか、やっぱりキーワードは「舞踊歌謡」なんだ。店員の話と見事に一致する。

 しかし、『ああ、白虎隊』は結局当分聞けそうにない。当分どころか、一生聞けないかもしれない。そうなると、どうしても聞きたくなってくる。店員の話が事実だとすると、これを聞くには中古のドーナツ版を探すしかないことになるが、三橋美智也の舞踊歌謡のドーナツ版などどう考えても見つけられそうにない。ああ、聞きたい。ああ、どうしよう。ああ、白虎隊。




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