100 ネット古書店の快楽

2001.11


 本を買い始めるととめどがなくなる時期がぼくにはある。この数年は停滞期だったのだが、ここへ来て俄然またやみくもに買いたいという衝動に駆られるようになった。それというのも、インターネットの新刊や古書の販売サイトに出会ってしまったからだ。

 新刊のほうはずいぶん前から利用していたのだが、どういうわけか古書のほうは覗いてもみなかった。ところが、ひょんなことで古書店の検索システムに行き着いて、びっくりしてしまった。全国の古書店がデータベースに参加していて、試しに検索してみると見事に一覧表示される。値段を比べることもできるし、すぐに注文することもできる。

 ふと、どうしても欲しい本があったことを思い出した。昭和60年に小磯良平の文化勲章受章を記念して復刊された『薬用植物画譜』である。刊行当時、美術教師の推薦によって学校の図書館が購入したその画集を一目見て魅了された。小磯良平と言えばあまりにも有名な洋画家だが、この画集の絵は、昭和31年から13年間にわたって武田薬品の社報の表紙絵として描き続けたという水彩画で、そのすばらしさは筆舌に尽くしがたい。

 しかし、定価5万円というのは当時のぼくには高すぎた。ずいぶん迷ったあげく、学校にあるからいいやと泣く泣く諦めて15年。しかしここへ来て、自分でも植物画を描くようになって、どうしても手元に欲しくなったのだ。版元に問い合わせたが、もちろん絶版。その本を思い出したのだ。

 さっそく検索してみた。なんと各地の古書店に数冊がある。しかし値段が8万円から4万円までまちまちで、どこがどう違うのか分からない。現物を見ることができないから、どの本が汚れが少ないのかも分からない。常識的に考えれば8万円のものが一番綺麗なのだろうということになるのだろうが、まあ絵を描く参考になればいいということで、一番安い4万円のものを注文した。大阪は堺の古書店だったが、注文して代金を銀行に振り込んで4日後にもう届いた。

 届いた現物をみてまたびっくり。なんと、新本同然の綺麗な本である。ページをめくった痕跡すらない。ネット上での情報では「美本」とあったが、「極美本」である。

 味をしめたぼくは、今度は前から欲しいと思っていた、作品社刊の「日本の名随筆」全100巻を5万円で買ってしまった。今度は群馬は高崎の古書店。今その本を迎えるため、本棚の整理にいそしんでいる。






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