84 嫌な感じ

2014.6.14


  毎年夏休みになると、夕食後に家内と1時間ほどウォーキングをする習慣になっているのだが、今年は、既にもう夏休み状態なので、もう始めるかということになり、この木曜日に開始した。

 家から坂道をおりていって、上大岡駅周辺の大岡川の川べりを歩くのだが、歩き始めが7時ごろなので、駅の近くとなると、通勤帰りの人が非常に多い。今は日が長いので、結構目立ってしまう。目立ってもかまわないが、何か明るいうちから申し訳ないような気がして、それで、なるべく人目の少ない道をそそくさと歩く。

 川べりに、一軒、割と大きな居酒屋がある。友人と二度ほど行ったことがあるのだが、二度目に行ったとき、従業員のオネエサンが、カウンターにいた中年の太ったオヤジの客の隣にベッタリ座って酌をし始めたのを見て、なんだかゲンナリしてしまって、それから二度と行かなくなった。スナックとか、そういう類の店ならともかく、ただの居酒屋で、そんなことはありえないはずなので、嫌な感じだった。ひょっとしたら、その店のオーナーなのかもしれなかったが、それにしても、嫌な感じには違いなかった。

 その店の前を通りかかったとき、店の前の、細い道の端、川べりのフェンスに二人の男女が抱き合ってもたれかかっているのが目に入った。瞬間、それが、初老の男女であることを、ぼくも家内も見て取った。背の小さいかなり太ったオヤジ(あるいはジイサン)が、更に背の小さなこれもかなり太ったオバサン(あるいはバアサン)に何か尋常でない力を入れて覆い被さっていて、どうもキスをしているらしい。女の方は、男の影になって顔も確認できなかったが、とにかくぼくらは、そこからなるべくはやく離れようとしたが、彼らから2メートルも離れていないうちに、ブチュっというようなキスのような音がした。もう、あまりの気持ち悪さに、逃げるようにその場を離れた。

 たぶん、この居酒屋で、しこたま飲んだ後なのだろう。でも、まだ7時半にもなっていない。いったい何時から飲み始めたのか。彼らから20メートルほど離れたところに、彼らと同年ぐらいの男女が5人ほど入り乱れて、千鳥足で歩いている。ひとりのジイサンはもうロレツが回らずに、わけもわからないことをわめき散らしている。あの二人の男女も、この集団の一員なのかもしれない。

 まったく、近ごろの老人ときたらいったいどうなっているのか。もちろん、退職してヒマをもてあましているなら、何時から飲もうと勝手だし、60を過ぎたらキスをしてはいけないなんてこともないし、太っているからキスはだめだというわけでもさらさらない。不倫だろうが何だろうが、勝手にすればいい。日本は自由の国だ。しかし、それにしても、なんたる醜態であろうか。

 夏休みなると、この川べりでは、高校生の男女が暗闇に紛れてケシカラヌことをしているのをよく目にするようになる。それだって、決して勧められたことではないが、それでも、そこには、気持ち悪さ、薄汚さはあんまりない。(ときどきある。)もちろん、思わず、ヤメナサイ! さっさと家に帰って勉強しなさい! と叱りつけたくはなるが、ひょっとすると自分の中に青春に対する嫉妬が含まれているのかもしれないという反省の気持ちもまざる。

 けれども、この、いい歳した男女のフルマイは、ただただ薄汚く、嫌な感じである。老いらくの恋というのなら、もっと、違った形があるはずではないか。酔った勢いで、あやしげな居酒屋の前で、あんまりきれいとはいえない川っぺりで、高校生みたいな欲望を丸出しにして、人目もはばからずコトに及ぶなんて、あまりに貧しすぎる。哀しすぎる。

 亡くなった渡辺淳一は、老年の恋をやたらと推奨していたようだが、こんな光景を目にしたら、どうコメントしただろうか。自分は、ひたすら若くてきれいな女優なんかを相手にしていたのに違いないのだから。(実際のところは知りません。あくまで推測です。)


 

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