93 怒濤の処分

2011.3.26


 あの大地震があって以来、いろいろなことが大きく変化している。世の中もそうだろうが、ぼく個人としても、生活そのものを変えざるをえなくなっている。

 地震のあった日、一人暮らしの母の家が停電しているので、我が家に連れてきて2晩泊めたのだが、その後も「計画停電」が実施され、母が住んでいる地区は頻繁に停電があるのに、我が家の地区はまったくない。停電も昼間ならともかく、午後の7時から10時までにあたると、やはり寒いし不安だしということもあって、その度に我が家に泊めることになりつつある。

 我が家は、諸般の事情があって、3世帯住宅として作ってあるので、現在は部屋数は結構あるのだが、使ってない部屋があることをいいことに、次々と本棚を設置しては本を買い込んできたために、一人を泊めるとなると、ぼくがリビングに蒲団を敷いて寝なければならなくなる。これが度重なると、やはり蒲団の移動とか、母を泊める部屋の準備とかで大変になる。

 そこで、長いこと本を置く部屋にしてあった空き部屋を、いつでもさっと人を泊められるように整理することにした。それには、とにかく本を処分しなければならない。本を減らすということは、地震の前から、電子書籍化を推進してきたので、少しは減っていたのだが、それでもそんなことでは追いつかない。かといって、処分する本を段ボールに詰めて古書店に送るというのも時間がかかる。で、昨日、思い切って、神田の以前にも来てもらったことのある古書店に電話したところ、今日の2時ごろなら行けるという。

 せいぜい1週間ぐらい先だろうと思っていたのに、今日というのは驚いたが、こうなったら勢いだ。来てもらうことにした。その日は、朝5時ごろに目が覚めてしまって、いろいろといらない本を整理し始めていたのだが、残りの4時間ほどで、とにかく売る本を決めた。去年、この古書店に段ボール4箱ぐらいを送ったときは、あらかじめ売る本をメールして、査定も受けてのことだったが、その際、「引き取り不可」という個人全集がいくつもあった。けれども、今回は、そうした全集の類も持って行ってもらえないだろうかと考えながら、整理していた。

 約束通り、古書店の主人がワゴン車でやってきて、非常に丁寧に査定をしてくださり、何と「引き取り不可」の全集まで全部引き取ってくださった。本の数は数えなかったが、全集本や単行本を合わせて、400冊に近かったのではなかろうか。古書など二束三文のこのご時世に、総額で18万5千円となった。ぼくよりも10歳も年上のご主人が、一人でその本を車に運んでくださったが、さすがにぼくも腰痛持ちとはいえ、黙って見ているわけにもいかず、おそるおそる運ぶのを手伝った。

 今日は、その古書店にも、持っていってくださいと言うのが憚られた美術全集を、近くの資源回収センターに持って行った。学研の『体系世界の美術』という20冊の大型本で、30年以上も前にぼくがどうしても欲しくて大枚はたいて買ったものだ。ところが、現在では古書としては値がつかず、ただでもいいからといっても引き取ってはくれない。しかも、1冊がどうしようもなく重い。今まで2回の引っ越しでも、その度にこの本には苦労してきたのである。これをこのまま持ち続けるのはとても無理だ。そこで、昨日、古書店に大事にしてきた個人全集を売り飛ばした勢いで、捨てに行ったのである。この資源回収センターでは、本の場合はいちおう業者が来て、使えそうなものは、どこかに回すという話だから、資源ゴミとなるかどうかは微妙なところだが、まあそういう可能性もあるということがせめてもの救いだろうか。

 こうやって、際限もなく本を買い込み、その挙げ句にもてあまして、売ったり捨てたりということを、ずいぶんと繰り返してきた。思えば愚かなことであった。オレは、今、心から反省しているよ。こんな極道な男をよくも捨てずにここまでつき合ってきてくれたと、家内にも詫び、感謝もしたのであった。

 そんなこんなで、空き部屋はほんとうに空き部屋らしくなり──といっても依然本棚には文庫本が並んでいるのだが──いつでも人を泊められるようには一応なった。やれやれである。

 

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