67 めんどうバス

2010.10


 近頃の都立高校や県立高校ではそうもいかないようだが、ぼくの勤務校では中間試験などで学校がはやく終わったら、教師も特別な用事でもないかぎりさっさと帰ってよいという美風を残している。

 先日も、生徒といっしょにさっさと学校を後にして帰宅したのだが、まだ正午前、最寄り駅から家までのバスに乗ると、ここがもう老人ホームかというほどの高齢者の巣である。ぼくも正真正銘の高齢者のひとりではあるが、ぼくよりもはるかに高齢なジイサン、バアサンがウジャウジャいるのにはいささか閉口する。いやにバスは混んでいて、座れないバアサンも出てくる。ぼくは自分が席を譲る方なのか、譲られる方なのか微妙なところにいるので、めんどうなので、こういう時には座らないことにしている。

 かなり高齢なバアサンが、これもかなり高齢なバアサンに席を譲ろうとして立ちかかけた。すると、譲られたバアサンは「いいの、いいの。私はもうすぐ81になるんだけど元気なの。だから大丈夫。」といって座らない。譲った方がいくつなのかよく分からなかったが、納得したのか浮かした腰をまた座席に沈めた。すると譲られたバアサンが続きを話す。「もうすぐ誕生日で81だけど元気なのよ。仲間が30人ぐらいいるんだけど、もう歩いて歩いてねえ、今でもみ〜んな元気よ。」

 ぼくはだんだん腹が立ってくる。もう分かったから、自慢はやめろ。81だけど元気だ、なんて大声で言うな。それを聞いて、あ〜あと思う人がこのバスにいったい何人乗っているか分かっているのか。61のぼくだって、やれやれと思っているんだ。

 心の中で毒づいていると、後ろの方から「ねえ、社長。」と呼びかけるジイサンがいる。まさかぼくのことではないだろうと思って振り返りもせずにいると、バスが走り出してからも、「そこのダンナ、ここあいてるよ。」とまた呼びかける。ひょっとしてと思って振り返ると、やっぱりぼくの方を見ている。

 「いいですよ。すぐ降りますから。」と断る。このバスは我が家の上の方に広がっている団地を回るバスで、ぼくはその団地に入る前に降りるから、二人がけの席の奥の方に座るとめんどうなのだ。で、ぼくの前に立っていたぼくより明らかに高齢なジイサンに「あそこあいてるそうですよ。」というと、そのジイサンも「すぐ降りるからいいよ。」と言う。

 ああ、めんどくさい。こんなことなら学校でうるさい中学生にからまれているほうがまだマシだ。


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