54 熱中症

2010.7


 この1ヶ月あまりの間に、まるで何かに取り憑かれたかのように本の電子書籍化に熱中している。あっという間に200冊を越える本や雑誌が電子書籍となり、紙の本体は資源ゴミとなって、あえなく本棚から去っていった。何事もひとたび熱中するとしばらくはそのことしか考えられなくなるのがぼくの積年の悪癖で、こればかりは歳をとっても治らない。

 学生時代からつい最近までは、本棚に本がどんどん並んでいくのが何よりの楽しみだった。それらを片っ端から読むわけではなく、ただ眺めているに過ぎなかったのだが、それでもその眺めはたとえようもない快感をもたらしてくれた。

 ところがここ1ヶ月というもの、本棚がどんどんスカスカになっていくのが何よりの快感となってきてしまった。それでも最初のうちは、すでに読んでしまった古い本で、しかも赤い傍線がいたるところに引いてあったりして、古本屋も引き取ってくれないような本を電子書籍化していたのに、最近では、これは是非読みたいと思う本を電子書籍化している。昔の本だろうが、新刊本だろうが関係ない。iPadに取り込んで読む方が、紙の本を読むよりずっと読みやすいからである。

 こう言っても、ぼくの周囲では、紙の本のほうがやっぱり読みやすいよという人がほとんどなのだが、これはもう趣味の問題だからどうしようもない。ぼくはiPadの方が読みやすいのです、というしかない。そして何より肝心なことは、読書量がグッと増したという事実だ。

 オタクと呼ばれる人たちの造語だろうが、こういう風に自分で本を裁断してPDF化することを「自炊」というらしく、だんだんこの言葉も広まってきた。そればかりかつい最近知ったのだが、裁断済みの本をオークションサイトで売る人まで出てきている。なるほど、すでに切ってあれば手間が省けるし、売る方としても資源ゴミに出すよりマシである。

 しかしこうなってくると、いっそのこと自分でPDF化したもの、つまりPDFファイルそのものをネット上で売ってしまおうと考える輩が出てくるに違いない。(というか既に存在すると思う。)これは当然著作権の侵害になるから違法だが、ネットの世界は何でもありなのでオソロシイ。

 そうなる前に、出版社は電子書籍の販売に本腰を入れるべきだろう。特に新書は紙の本である必要はまったくないといっていい。

 まあ、いずれにしても、しばらくこの方面の動向からは目が離せない。


 

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