49 電子書籍化の夢

2010.6


 このところipadのことで頭がいっぱいなので、エッセイもそんなことばかりだが、どうにもこればかりは書きたいことが山ほどあるのでもう少しおつき合い願いたい。

 巷では、いわゆる電子書籍のことが大きく話題になっているが、それはもともと「電子書籍」としてオンライン販売されているもののことで、今回はそれとは違って、今持っている紙の本を「電子書籍化」することに関してである。

 機械のことは苦手という方のために、できるだけ簡単に説明すると、まず本のページをスキャナーにかけて「PDF」というファイルにする。というと、本をコピーする要領で、一ページずつスキャンするイメージをもたれるだろうが、そんなことをしていたら一冊の本を全部スキャンするのに何時間もかかってしまう。

 そこで、素晴らしい機械の登場だ。富士通が出しているScan Snapという製品で、これは単票の書類を高速でスキャンして、「PDFファイル」を作るという超優れ物だ。100枚ぐらいの書類でも10分とかからない。これを使うのだ。

 しかし本というのは冊子である。これをどうやって単票にするのか。ここからが今までにない発想なのだが、要するに、本の背を切ってバラバラにしてしまうのである。もちろん、こんなことをしたら本は台無しである。しかし、これで極めて簡単に一冊の本を電子書籍化できる。いわば、「身を捨てて実をとる」というやつである。

 本好きの風上にも置けない極悪非道な所業だが、息子はそのために大型の裁断機まで購入している。これを使って、古い文庫本を電子書籍化してみた。かかった時間はせいぜい30分。これをipadに取り込んで読んでみると、実に快適である。文庫本の小さくてかすれた活字が大きく拡大して読めるのが、老眼の身には何よりありがたい。寝っ転がって読むにはipadは少々重いが、ソファーなどに腰掛けて読むには、その重さもかえって安定感があって心地よい。

 今、企んでいるのは、プルーストの『失われた時を求めて』の、ちくま文庫版全10巻の電子書籍化である。今までに何度も挑戦して果たせなかった全巻読破だが、電子書籍化によって、それが果たせるかもしれない。

 そんなことしている時間があったら紙の本でさっさと読めばいいじゃないかという声もどこからか聞こえてくるが、まあこれも一種の病気だから仕方ない。さぞやプルーストも、俺の本を切り刻む気かと呆れていることだろう。


*最近では、キャノンなどからも同様の製品が発売されています。富士通のScan Snapはこちらのページで。

*どうでもいいことですが、このエッセイは、ipadを使って書いたものです。


 

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