45 電子書籍の時代 

2010.5


 アップルのiPadがもうすぐ日本でも発売される。「欲しいものがない」昨今ではあるが、心が動いている。というのも、先日、同居している次男と話をしていたら、何とすでに予約済みだというのだ。しかも、携帯と同様に使えるバージョン(3Gモデル)で、データ通信料を含めて、2年間の月々の支払いはおよそ6500円ほどだという。とにかく、来たら使わせてくれと言ったが、実際に手に触れてしまったら、買わないですませる自分とも思えないのである。まったく似たもの同士の親子が同居していることが間違いなのよと家内はため息、嫁は苦笑。

 そんな折、今朝のラジオでは、講談社が京極夏彦の新刊をipad用に配信するとのこと。紙の本だと1700円だが、キャンペーン期間中は700円、キャンペーンが終わっても900円だという。iTunesの音楽配信と似た状況である。

 やはり何かが大きく変わると思う。本はやっぱり紙じゃなきゃという人が今の時点では圧倒的に多いとは思うのだが、紙の本はやがて大きく後退するだろう。デジカメが登場したとき、だれが今の銀塩写真(フィルムによる写真)の衰退を予測できたろうか。iPadは、多分、それぐらいの変動を本の世界にもたらすだろう。

 銀塩写真は衰退したとはいっても、一部のマニアは依然として銀塩にこだわり撮り続けているが、やはり金のかかる趣味となっている。同様に、今後は、紙の本は、贅沢な趣味となっていくだろう。そしてたぶんこの贅沢な趣味は、あと数十年くらいは文化として残るだろうと思う。

 紙の匂いや手触りを感じながら、紙の本を開く楽しみは、当然iPadでは味わえないものだが、もしすべての本がiPadで読めるなら、家の壁を占領している本棚をとっぱらうことができる。これはこれで素晴らしいことではないか。何しろ、本の増殖はとめどがないし、下手をすれば家を壊しかねない。本のことを思うと引越もできないという状況が劇的に改善されるというのは、実に喜ばしいことだ。

 そして何よりも、専門書のバカ高さが、これで解消するかもしれない。せっかく学術書を出版しても、せいぜい1000部程度で、しかも著者が費用のほとんどを負担しなければならないというのはどう考えても不合理だ。電子書籍の恩恵は、京極夏彦ではなくて、多くの学者が受けるべきものに違いない。

 それにしても面白い時代に立ち会ったものだ。はやく実物を見てみたい。


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