31 400円

2010.2


 この2月10日から12日まで、中学3年生を引率して京都へ行ってきた。

 京都はあいにくの天気で、晴れたのは最終日の午後だけだった。雲の晴れ間からさした薄日に輝く雨上がりの金閣寺はさすがに美しく、生徒たちの口からも「おー!」とか「やべー!(これは若者語で、『すごい』という意味です。)」などという言葉が飛び出した。

 金閣寺に行く前に、嵯峨野散策がコースに組まれていた。まずは鳥居本にバスで行って、そこから徒歩で天竜寺までというお決まりのコースである。生徒はちょうど60人。バスを降りてからは、天竜寺までは自由ではあるのだが、ぼくは当然化野念仏寺を拝観すべきものと思っていたから、「こっちだよ。」と言いながら先導して入り口へ向かう階段をのぼっていった。生徒は「ヨウゾウについて行こう。」などと殊勝なことを言いながらほぼ全員がゾロゾロとついてきた。

 拝観券の販売所に着いたとき、ぼくのすぐ後ろを歩いてきた生徒がその料金表を見るや、「400円、うわ! 高けえ!」と叫んだ。「400円!」「400円!」という声が津波のように後ろの生徒に伝わっていくと、信じられない光景が広がった。

 60人近くの生徒が全員後ろを向いて階段を下り始めたのだ。あっという間に遠ざかっていく生徒たちの後ろ姿に呆然としたが、それでもぼくの近くでウロウロしている6人に気付いた。彼らはどうしようかと迷っていたが、どうもやっぱりやめてしまいそうだったので、ぼくは「ここを見ないでどうするんだ。絶対に損はしない。」と言って懸命に引き留めた。彼らもその熱意に負けたのか、400円の拝観券を買って中に入った。彼らが果たして、ぼくの言うことを聞いてよかったと思ったか、それとも、損したと思ったかどうかは知らないが、ぼくとしてはよしとするしかなかった。

 それにしても、中学生にとっては400円はそれほどまでの大金なのだと知って、改めて驚いた。そして、それなら、最初から念仏寺と祇王寺ぐらいの拝観券は事前に買って渡しておくべきだったと反省もしたのだった。

 それにも増して問題なのは、拝観料があまりに高いということだ。大人はともかく、中学生や高校生は、すべてタダにすべきではないのか。高速道路の無料化も結構だが、文科省もこういうことに配慮しなければ、「伝統文化の大切さを教える。」などという指導要領の文言など、ただのお題目にすぎなくなってしまうだろう。

 


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