20 グラフは語る

2009.11


 ぼくより一回り年上の「メル友」のSさんが、若い頃に買った世界文学全集を処分したいのだが、ブックオフなどでは引き取ってもくれないので仕方ないから捨てようと思っていると書いてこられた。確かに昨今では古書の価値も暴落していて、特に場所をとる全集などは涙が出るくらい安い。買うにはいいのだが、売るとなると引き取ってくれるだけマシという状況にある。

 世界文学全集と聞いて、ちょっと興味を引かれ、どこの出版社のものですかと聞いてみた。すると、さっそく写真入りでメールが届いた。河出書房新社のグリーン版世界文学全集全100巻だった。懐かしかった。今では手元にないが、高校生の頃、ドストエフスキーの『罪と罰』をこの全集で読んだ記憶がはっきりとある。

 あの全集100巻が、資源ゴミに出される姿を考えるといたたまれない気がして、結局ぼくが引き取ることになった。家内は、これ以上モノを増やさないでくれと悲鳴をあげたが、何とか許してもらうこともできた。

 さて段ボール箱2つに入れられて届いた100冊を何とか無事に本棚に収め、長年読もうとして果たしていない、オースティンの『高慢と偏見』でも読もうかと本を広げた。奥付は、初版昭和38年12月10日、再版昭和39年4月30日となっている。ぼくが中学3年のときの本だ。次に月報を見て驚いた。「第二集『怒りのぶどう』の愛読者カードをお送りいただいた数が12156通になりましたが、このカードによって読者の皆さんの年令別グラフを作ってみました。」として下のようなグラフが載っていたのである。

 このグラフを見て我が目を疑った。横軸の年令である。何と、13歳から始まって30歳で終わっている。31歳以上を省略したのかと思って計算してみたが、これで全部のようだ。この全集は昭和34年から昭和41年にかけて出版された大ベストセラーだったわけだが、この読者数がこの時代の一面を雄弁に語っているように思われるのだ。

 若者はこんなにも熱心に読書したのか。30を越すとこんなにも読書から離れていったのか。高度経済成長下における日本人の精神生活はこういうものだったのか。どの年令においても男の方が多いのは作品が『怒りのぶどう』だったからなのだろうか、それとも……。

 見れば見るほど様々なことが思われ、深い感慨に襲われるこのグラフ。これだけでも、この全集を引き取った価値は十分にあったというものだ。




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