18 オレとオマエ

2009.11


 先日、京浜東北線の中。東京駅あたりから乗って来た女子高生らしき二人のうち片方がぼくの左隣に座り、その前にもう片方が立った。ぼくは本を読んでいたのだが、どうにも彼女らの会話が気になる。

 二人の話の内容はちっとも要領を得ないのだが、ときおり相手のことをオマエと言い、自分のことをオレと言っている。女の子が、オレとオマエかよ、ああ何たる世の中、嘆かわしいことだと思いつつ、しかしオレ・オマエは、もともとはそれほど悪い言葉ではなかったんだよなあとも思ってみた。

 後で調べてみたのだが、オレは、「広く貴賤男女を問わず目上にも目下にも用いた。現代では、男子が、改まらない場面で同等もしくは目下に対して用いる。」(日本国語大辞典)とある。またオマエは、「(1)目上の人に対し、敬意をもって用いる語。近世前期までは、男にも女にも用い、また、男女とも使用した。(2)対等もしくは下位者に対して用いる。親愛の意を込めて用いる場合もある。江戸後半期に至って生じた言い方。」(同書)とある。

 かような次第で、オレもオマエも、もともとは男専用の言葉ではなかったのだから、今どきの女の子がオレとオマエで会話しても、それほど批難すべきことではないのかもしれない。しかし、近世前期ならぬ平成の御代の今日ただ今においては、うら若き乙女の口から出る、オレとオマエが不快に感じられることもまた事実だ。

 たわいない会話をしていた彼女らだったが、隣の子が、上野駅に着いたとたん、ウッと言って体を前に90度倒してしまった。誰かに見られたくなくて顔を隠しているのかなと思っていたら、1分ほどして体をもとに戻して、「ああ痛いよう。心臓をぐっとつかまれたみたいだった。まだ痛い。どうしたんだろう。怖いよう。」なんて言っている。

 おいおい、それ、何だよ。心筋梗塞なんじゃないのか? と他人事ながら心配していると、その子はケロリとして「鏡ってチョー怖いよね。」と言う。「オレも、月が出てるときなんか、鏡みるとなんか怖い。」「上野でどうしてああなるんだろう。」「何それ。何かいるのか? 上野に。」「メール打とう。ひまだし。」

 何が「ひまだし」なんだ。友だちが目の前にいるじゃないか、なんて思っているうち、立ってる方は、じゃあねとか言って降りていった。隣の子は、まだメールを打っている。

 今どきの女の子というのは、どうもやっぱり何だか分からない。



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