13 女はキツイ

2009.10


 もう何年も前のことだが、古くからの友人と電話で話をしていたら、オレの周囲の女どもはどうしてこうキツイやつばかりなんだろうかとシミジミと言うから、オマエは50を過ぎてもまだ分からないのか、世の中にキツクナイ女なんてものは一人も存在しないんだ、とジュンジュンと諭したことがある。

 女は一人残らずキツイ。これは永遠の真実である。

 この夏休みに久しぶりに孫たちが遊びに来た。上の子は男で今年小学校1年。下の子は女で4歳。屋上のビニールプールで遊んだあと、下の子の手を引いて階下の部屋に行こうとしたところ、廊下に置いてあった文庫棚(数百冊の文庫本を収めるために自作した棚だ)を見て、ぼくをチラリと見上げ、ポツリと「これ、全部読めるの?」と言った。そのチラリと見上げた視線は、まさしくキツイとかキビシイとかいうしかない女特有のもので、ぼくはもうすっかり動転してしまい、何と答えたのかも記憶にないほどだ。

 ぼくがその時、その4歳の孫娘に期待していた言葉は、「すごいねこの本!」とか「いっぱいあるねえ!」とかいうもので、また同じ「これ、全部読めるの?」でも、感歎と尊敬の念を込めた「これ、全部読めるの!」とか「これ全部読んだの?!」とかいった意味合いの言葉であって、醒めた声とキツイ視線を伴った「これ、全部読めるの?」では決してなかった。4歳にしてこれである。末オソロシイ。

 今年85歳になる吉本隆明の『老いの超え方』(朝日文庫)は、まことに面白い、ある意味びっくりするような衝撃的な本だが、その中で、どのような女性がいいかという質問に、漱石の『坊ちゃん』に出てくる「坊ちゃんをかばってくれる老女」(つまりキヨ)がいいと答え、こう続けている。

 それが漱石の年取ったときの理想の人だったんでしょうね、そういうふうに書かれているから。若いときに、兄に将棋の駒をぶつけたら血が出た。それでおやじに言いつけられて、おやじから勘当を言い渡されたときに、その老女は「私が代わりに謝るから許してやってください。この坊ちゃんは、素直でとてもいい人柄です」と言って、かばってくれた。(中略)そういう人がいいですね。文句なしですね。

 そりゃあ「文句なし」だろうよ、と思わず呟く。漱石も吉本も、みんな夢みている。それだけ女のキツサが身にしみているのだろう。

 女はキツク、男はあまい。どこまでいっても、この図式だけは変わりそうもない。



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