9 アダプター

2009.9


 家内の父は写真を趣味としていた。今は老齢と病気のためほとんど病床にあるので、好きな写真撮影もまったくできなくなってしまった。義父は風景写真を専門にし、やがてその対象を「波」に絞って撮り続け、二科展にも何度も入選し、個展も数回開いた。まあアマチュア写真家としてはこれ以上は望めないほど充実した日々だったと思う。

 風景写真を撮り、それを大きくプリントするとなると、どうしても普通の35ミリフィルムよりブローニー版という大きなフィルムを使いたくなる。画質が圧倒的に違うのだ。義父もペンタックスの67とか645といった中判カメラを愛用した。それで我が家には、それらのカメラの交換レンズが10本以上ある。

 これらのレンズは、ぼくが引き継げばまだ使い道もあるのだが、デジタルカメラの進化すさまじい現在、フィルムカメラ、それも中判のフィルムカメラで写真を撮るというのは一部の経済的に豊かなマニアの趣味となりつつある。フィルム代、現像代、プリント代などでどれほど金がかかるか考えただけで気が遠くなる。来年から給料が半減する身としては、今更そんな贅沢ができるはずもないし、する気もない。

 つまりこれらのレンズ群は、無用の長物と化していたわけである。それならいっそ売ってしまえばいいじゃないかといっても、これが涙がでるくらい低価格。ブックオフに本を売る方がまだマシという状況なのだ。そういうわけで、使い手のなくなったレンズは我が家にむなしく保存されるだけの運命となった、とずっと思ってきた。

 ところが、先日ふとしたことで、ネット上に、大型カメラのレンズをニコンのボディで使うことができるという記事を見つけた。つまり、ニコンのカメラと、ペンタックスの大判カメラ用レンズをつなぐ、アダプターがあるというのだ。それなら僕の愛用のニコンのデジタル一眼で使えるわけだ。

 アダプターは15000円と、決して安くはないが、さっそく購入してみた。驚いた。ちゃんと使えるではないか。無用の長物と化したかに見えた100万円近くもする超望遠レンズも、見事によみがえった。

 こうしたアダプターは小さな会社がコツコツと作っている。大量生産、大量販売のご時世に、ありがたいことである。

 無用の長物も、アダプターひとつでよみがえる。ひょっとしたら、古典を教える教師というのも、こうしたアダプターのようなものなのかもしれないと思うと、ちょっと嬉しくなった。



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