92 視野検査というものがある。

2009.5


 視野検査というものがある。緑内障という眼の病気の検査で、視野の欠損を調べる検査である。

 医学的に詳しいことはわからないが、ぼくはもう20年以上も前から、眼圧(簡単に言うと目玉の硬さのこと。)が高いと言われ、それからずっと目薬をさしている。そのおかげなのかどうか眼圧は安定しているらしいのだが、眼圧が低くても緑内障になるということも多いそうで、最近ではほぼ1年に2回ぐらいの頻度で視野検査を受けている。

 初めて医者から「今度視野検査をやります。」と言われた時、「別に狭いなんて感じませんけど。」と思わず言ってしまったら、医者はむっとした表情で「視野が狭くなったなんて自分で分かるようになったらもう末期症状ですよ。」みたいなことを言うので、じゃあどんな検査なんですかと突っ込みたかったが、おっかないので、おとなしく次の診察の時に視野検査を受けた。

 これが、びっくりするくらいわけのわからない検査だった。まず大きな機械の前に座り、顎を台に乗せ、片目をガーゼでふさがれる。部屋が真っ暗になり、大きな薄いオレンジ色の明るい円だけが見える。右手にボタンのついた器具を持たされ、「ピッと音が鳴ったとき、何か見えたらボタンを押してください。片眼で5分ほどかかります。」と言われる。「では、始めます。」

 真っ暗な中で光るのならすぐに分かるのだが、もともと明るい円の中に、ほとんど1秒おきぐらいに、ケシ粒より小さい光が一瞬だけどこかで光る。しかもこの光の強さが一様でない。空の星で言えば、1等星ぐらいに明るいのから8等星ぐらいしかないんじゃないかと思われるくらいのぼんやりした光までいろいろである。もちろんピッと鳴ったときに必ず光るわけではない。

 それでも初めのうちは、まだなんとか分かるのだが、だんだん疲れてきて涙まで出てきたりすると、もう何が何だかわからなくなってきて、あ、見えない、また見えない、もう駄目だ、視野が欠けているんだ、もう駄目だ、失明だ、などと絶望的な気分になったころやっと終了。どっと疲れる。

 最近の『週刊文春』に土屋賢二がこの検査のことを書いていて、笑ってしまった。彼はもうやけになって、音が鳴る度にボタンをメチャクチャ押してしまったという。そしたら先生に、「おかしいです。見えないはずの所まで見えています。」と言われて再検査となったそうだ。バカな話だが、検査の経験者としては、その気持ち、よく分かる。


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